余計な事を思い付く前に、考える前に過去にしてしまおう。
そう思い立つと、鞄を持ち教室を出ようと足を踏み出した。
だが。
「何処へ行くんだい」
ガラッと音を立てて教室のドアが開いた。
中学生にしては少し低い声に、ゾクリと背中に冷や汗が伝う。
思わず足が下がった。
「か、帰ろうと──思ってます」
下校時刻だからという、当たり前の答え。
そう自身を納得させる。
けれど、雲雀はそんな思いも無視して口を開いた。
「そう。でも君、さっき校則を破ったね」
──え?
「廊下、走ったでしょ?」
ドクリ。
思い当たる節はある。
しかも確証で、だ。
その反応に、理解したのだろう。
雲雀は視線だけ残して実に、実に楽しそうに言葉を繋げた。
「おいで。応接室で反省文書いてもらうから」
後ろで真っ青になっているであろう葉月を知りながら。
学ランを靡かせて、雲雀は教室を後にした。
獲物を己のテリトリーで待つ肉食獣のように。
逃げ場のない獲物は、その後をとぼとぼと力無く追い掛けていった。
夕日でオレンジ色に染まった教室を後にして。校則違反者捕獲!(やっと君が罠にかかった)