ふわりと笑う葉月。
それが偽物の月だと知っていて、なおそう思える所は流石、鈍感な君だから成せる技なのかもしれない。
涼しいくらいの秋風に髪を撫でられ、日本酒の注がれた猪口を手に取り、一口運ぶ。
庭に植えられていないススキが花瓶に活けられ、月見団子と少しの煮物、そして日本酒までしっかりと用意されていた。
こういうことには気が回るのに、どうすればあんな発言が出るんだろう。
本当、何時まで経っても理解に苦しむよ。
闇夜の中、月の光が綺麗に差し。
それが偶然にも猪口に写り込めば「風流ですね」なんて、何の得もしないのに僕を煽る。
作り物に囲まれた箱庭で唯一の“本物”の葉月。
それが僕にとってどれほど重要な位置を占めているか、きっと君は今でも気付いていないのだろう。
だけど葉月のペースに合わせる優しさも、つもりもない。
猪口をそのまま縁側の床に戻し、ゆっくりと立ち上がる。
そうすれば彼女も同様にそうするから。
「もう寝ますか?」
「そうだね。あんまりいると風邪ひくよ」