……いや、思っていた。
“雲雀さん”から“恭弥さん”に呼び方が変わったように。
私の中で十年をかけて彼は変わった。
初めはガキ大将みたいな我が儘“風紀委員長”。
そのうちに信用出来る“上司”になって、気になる“男の人”になって。
今では“婚約者”だ。
──時とは恐ろしい。
その時「ふっ」と恭弥さんの口から息が漏れた。
彼の口角が上がるのに、びくりと震える。
「ねぇ、見すぎ」
「あ……え、う?」
「そんなに僕が恋しいかい?」
クスッと笑って、ちらりとこちらを見る流し目。
計算なのか無意識なのか。
分からないけれど、私がその仕種と表情に弱いことはお見通しだろう。
しばしば彼は私をこうして楽しむ。
分かってはいるが、私の顔はツベルクリン反応のように否応なく赤くなっていった。
……恥ずかしくてたまらない。
「ねぇ、何処に行くの?」
たまらないから上手く話題を反らそうと必死になるけれど、
「秘密。でも、葉月と行きたい所だ」
やっぱり彼の方が上手だったりする。