「ねえ、美月。オヤツは三百円なんだ?」
「うん、さんびゃくえんだよ」
小首を傾げて“どうして?”と聞く美月を見て、雲雀はポケットから銀色の硬貨を草壁に差し出した。
「あの、恭さん?」
五百円玉の硬貨を。
「この子、僕のオヤツにするから。お釣りはいらないよ」
その場にいる、妻以外の全員が一瞬固まるが。
「わたし、たべれないよ?」という美月の声に、草壁はハッと我に帰ると、慌てて娘を雲雀から奪い、無理矢理幼稚園バスに押し込めた。
多分、人生で一番俊敏な瞬間だろう。
「行ってください!!」
草壁の渾身の絶叫が、朝の並盛住宅街に響き渡った瞬間だった。あなたは(幼い少女を)
おやつに入りますか?
(ぱくり?)
お題拝借:ニーチェの鼻歌 様