「貴方が直接手を出してくるとは思わなかった」


コートまで大した距離はないはずなのに、何故か少し遠回りをしていることに気付く。
といっても、もう目の前にコートが見える所まで戻って来たのだが。


「変わらんからな」


「何が?」


私の疑問に心底驚いたらしい。
眼鏡の奥に見えた冷たい瞳が、見開かれる。
そして同時に、またあの嫌味な笑顔になった。


どうやら私は忍足クンの興味を引いたらしい。
多分、悪い意味で。


「ッ!?」


彼は楽しそうに、男の力で無理矢理身体を引っ張ると、そのままフェンスに私を押し付ける。
ガシャンという音が、やけに耳に響いた。


フェンスと忍足クンの手に拘束される腕。
身体は彼のそれで挟まれ動くことも出来ない。


随分な至近距離。
こういう時は、たとえ相手が中学生でもナメてはいけない。
一歩間違えれば犯されても可笑しくないから。


──ま、忍足クンに限っては無いだろうけれど。


目の前の男は、多分“男”であることを武器にはしない。
そんなアンフェアな条件でゲームをクリアするとは思えない。


彼のプライドにかけても。



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