何処かの歌にあったように……始まりは、そう、単純で。















『ツライ、ツライ、ツライ』


暗い闇の中。
誰かの声がする。
綾は寝返りをうつと、自身が先ほどベッドの中に入って就寝したばかりだということを思い出した。
瞼を閉じたまま、眉間に皺がよるほど露骨に嫌な反応をするも、これが夢の中なのか、はたまた現実の出来事なのか、区別が付かない朦朧とした世界で、誰が彼女の表情を気にするのだろうか。


──五月蝿いなぁ。


『ドウシテ、ドウシテ、ドウシテ』


悪態を付く綾を無視して、声は暗闇の中を、思考の中を響き渉る。
幼さの残る、少し高めの声から相手が女性であることが伺えた。
何とか関わらないよう、更に何度か寝返りをうち、声を消そうと試みるも、声は思いとは裏腹に段々とはっきりしてくる。


これが俗に言う幽霊とやらの仕業なのか。
一瞬思い付いた考えを頭の中で否定した。
幽霊など誰が信じるのか。
いや、例え幽霊だとしても綾には自身に霊感なるものがあるとも思えなかった。
それに、幽霊を助けてあげるほど、心優しい人間でも、お人好しでもないことは重々承知なのだ。



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