「残念。壊しに来たの」


負けず劣らずの黒い笑みで返す。
一瞬驚いたような、でも期待を含む表情を彼はした。
それはとても中学生らしい表情。


「結衣チャンを救うため?」


「違うわ。私は誰も救わない。“天使”じゃないもの」


会話の腰を折るように、遠くから彼を呼ぶ声が聞こえた。
少し高めの少年の声。


「やっべー、そろそろ監督が来る頃だCー。ここで会った事は秘密、ね?」


普段の調子に戻った芥川慈郎に少し、カマをかけてみる。


「いいわ。ねぇ……君は“傍観者”なのね?」


ビクリと表情が強張った。
絶えず笑みを忘れない明るい顔に、緊張と恐怖の色が惜しげもなく溢れる。


「俺は、」


「駄目よ。アナタ達が一番傷付けてる。だから……逃がさない」


遮るような言い方に怯えた表情。
きっと私は今、物凄く冷たい笑みを浮かべているのだろう。
中学生は見たこともない、大人の嫌味な表情を。


だから。
直ぐに柔らかく微笑み、優しい声で続けた。



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