「なぁ、オメェ、誰?」
──やっぱりいた、芥川慈郎。
金色に光る髪の毛が風に靡いている。
漫画の中で見た、普段の眠たそうな顔からは打って変わった真剣な眼差し。
何かを見極めるような、強い瞳。
「私は楓原綾。転校生」
ざあっと私達の間を風が吹きぬけた。
遠くから足音が聞こえる。
もう部活が始まっているのだろう。
ランニングの、規則正しくそしてヌーの大群のような響く音。
「楓原綾?大学生の……」
「……」
「結衣チャンが言ってた“天使サマ”の名前と同じだCー」
その、思いがけない呼び名を聞いて私は目を丸くする。
まさか、こんなに早く情報が回っているとは。
……いや、その呼び名で通っているとは。
「天使じゃないよ。私は……悪魔」
芥川慈郎はニヤリと笑うと、木から飛び降り、私の前に立った。
目線は同じ。
少し、ほんの少しだけ、彼のほうが小さかった。
「俺、芥川慈郎。オネエサンは氷帝を救いに来たの?それとも呪いに来たの?」