何故ならここは……。
「しかし、楓原。君の仕事は此処からだろう?授業はどうすることも出来ないが、部活動は別だ。困った事があったら何時でも私を頼りなさい。では、ご苦労だった。行ってよし!」
…………。
──その、アンタの部活動に問題があるんだろ!ご苦労、逝ってよし!!だっつーの!!
金色のまるきり校則を無視している、整えられた髪。
家柄を彷彿とさせる皺一つないスーツ。
大人を匂わせる香水。
何一つ音楽教師から掛け離れた彼が突き出した、二本の指。
そう。
この奇妙なセリフとポーズとその全ては、彼が“榊太郎”だから成せる技である。
つまりここは紛れもなく“氷帝学園中等部”なのだ。
私は思いきり、遠慮なく溜息を吐いて、肩を落とした。
何故私が漫画“テニスの王子様”の世界である此処にいるのか。
それは私にも分からない。
気が付いたら、見覚えのない部屋にいた。
服もいつの間にかパジャマから“基準服”と称されるそれになっており。
そして、何故か握っていた紙に一言──
“頑張れ”