長い足を存分に利用し、一気にお互いの距離を縮める。
ハヅキの記憶の最後は「残念ですが、ここが終着駅でございます」そんな不可解な言葉と、やけに不機嫌なインゴの顔、そして嗅いだことのない匂いだった。
マフィアか殺し屋みたいに一部の無駄もなく動いた身体にインゴ自身驚いてしまう。
まさか使うとは思わなかった、クロロホルム。
それが含まれた黒のハンカチがゆっくりと宙を舞って落ちた。
『あーあ、やっちゃったね』
扉を優雅に開けて入って来たエメットが、何時もよりニヤニヤ笑っていた。
足元に倒れたハヅキと、その横の手紙から直ぐ事態を察する。
『お前ですね、このハンカチは』
ギロッときつく睨みつけたインゴに、クスクスと笑い声を零すエメットは実に楽しそうだ。
『使うと思わなかった。でもインゴ、ハヅキを逃がす気なかったでしょ』
『ええ、始めから』
足元に倒れるハヅキを見下ろした、青の瞳が鈍く光った。