「今日もかわいいね、ハヅキさん」


優しく蕩けるような甘いクダリ君の声がする。
それに合わせて後ろから大きくて包み込むような手が頭を撫でてきた。
クスクスと笑うそれはノボリ君だ。


ギアステーションのサブウェイマスターの二人。
ポケモントレーナー達の憧れの存在であり、また、大きな壁でもある役職。
そこに皆の期待を背負って立つ最強の双子。


そして。
私からその立場を簡単に掠め取っていった、最悪の悪魔。


彼等がこのギアステーションに就職希望であると知ったとき、ここはかつてないほど盛り上がっていた。
イッシュ地方のトップであるアカデミーを優秀な成績で卒業する予定だった彼等は多分、各社から熱烈なラブコールを受けていたに違いない。
彼等の優秀っぷりは知っていたし、何度かスーパートレインでバトルを受けていたから、その実力はよく理解していた。
だから、こんな地位も財力もない社畜育成所と名高いギアステーションを彼等が希望しているとは夢にも思わなかったのだ。


初めは勿論ただの噂だと思ったが、黒の就活スーツを来て面接に来たときに、確信した。
今でもあの衝撃は忘れない。


彼等の瞳は完全にイっちゃっている廃人だったのだ。


それを当時の人事部がきちんと理解していたかどうかはさだかではないが、彼等は無事、多分第一希望であろうここ、ギアステーションからの内定を慎んで受けたのである。


優秀な新人は勿論、入社してからも順調に経験と職務をこなし、当然ながら希望部署はバトルトレイン。
初めのうちは自身の能力全てをお客様にぶつけるというとんでもない失態を侵していた彼等も、徐々に立場と手加減という言葉を知ったのか、一部のお客様の噂と化していったのだ。
“イケメンの鉄道員がいる”と。


そんな楽しい日々だった。
少なくとも私にとっては。
あの日、までは。


「僕達、ハヅキさんと本気のバトルがしたい」


「失礼ながら貴女様の実力より私達の方が勝っていると思います。それならばギアステーションの最強の名であるサブウェイマスターは私達が担うべきではないのでしょうか?」




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