「え」
ことは出来なかった。
恐ろしく冷たい目をしたノボリが、ハヅキのお腹に手を回しまるで纏わり付くような雰囲気をして、
「ご乗車ありがとうございました」
と決まり文句を言ったから。
トウヤの身体が動くより先に、ハヅキが逃げ出そうとするより先に、プシューと音がしてトレインの扉が閉まる。
二人を隔てたトレインは通常通り車庫へと帰って行った。
トウヤの悲痛な叫び声をホームに残して。
「いたっ!」
ノボリにしては乱暴に、ハヅキを扉に後ろから押し付ける。
両手を扉に当てて直撃を避けたが、一ミリも自由が利かないくらいに拘束されていた。
ハヅキの両足の間にはノボリの片足が割り込み抵抗すら許されない。
「ノボリさん」と小さく震えた声はトレインの音に掻き消されていった。
「ハヅキ様」
ハヅキの耳元で、吐息を含んだ低い声が響く。
たったそれだけでハヅキの身体は酷く震え“怖い”という感情をノボリに伝えた。