突如聞こえたやけに甘い声に、ドサリと聞こえた不吉な音。
まさか、これは。
キリキリと顔をゆっくり上げる。
ギギギアルでももっとオイルを挿していてスムーズであるだろうに。
目の前のクラウドさんが苦笑いしていた。
「ぼく、このお店知らない。ライモンじゃないよね?」
「え、え。サンヨウの、最近オープンした店です」
「ふーん。あ、二つある!これノボリの?ねぇ、ノボリにあげていいやつ?」
「…………お二人への、差し入れですからどうぞお好きに」
にぱっ。
天使も赤面、はかいこうせんも一ターンで使用出来るような素晴らしい笑顔に、私の顔は引き攣るばかり。
「ありがとう、ハヅキ大好き!」と社交辞令過ぎる言葉を添えて、ギアステーションの若きボスはケーキの箱片手に執務室へ走り去って行った。
「クダリさんって、狡い」
そうぼやいたカズマサの目線の先。
先程までケーキの箱があったテーブルには、厚さ十センチは下らないであろう書類の束が堂々と鎮座していた。
「これ、ボスのノルマやろ」
ちらりと数枚内容に目を通して、肩をガクリと落とすクラウドさんを見て、その場のスタッフが深く溜息をはいたのは、ギアステーションの日常なのだ。
ああ、こんなふざけた人、彼氏どころが合コンでも出会いたくない。
友達の、馬鹿。