「私をどうするつもり!?可哀想な部下に惨めな仕事でもさせればいいわ」


「そんなことは致しませんよ。ナマエ様は私達に永遠に甘やかされれば良いのでございます」


「そう。ずっと愛してあげる。他のことなんて何も考えられないくらいに、ね」


灰色の瞳を見ていたら、世界は暗転した。


そんな、遠い記憶。
今の私の目の前もあの時と何一つ変わらない状態。
ただ少しだけ違うのは、私の時とは違ってサブウェイマスター専用の特別な仮眠室にベッドが二つ設置されていて、私はモノクロのワンピースを着ていて、私の相棒達は誰一人傍にいなくて。
そしてあの日から一度も外出していないこと。


一度だけクラウド君をドアの隙間から見たけれど、彼は一瞬だけ驚いたようで、直ぐに賢くそれを忘れた。
一瞬で判断したのだ。
見てはいけないもの、触れてはいけないことだと。


優しく触れる四本の手。
この手を拒むことも否定することも、もうずっと前に諦めた。
逃げられなどしないのだから。


「ボス!ええ加減に起き!スーパーマルチにお客さんやで」


ドアの向こうからの声に二人は悲しそうな顔をする。
だから私は優しく微笑んでみせて。


「いってらっしゃい。お客様がサブウェイマスターを待っているのよ」


「帰ってきたら、ナマエさんに誉めてほしい。楽しいバトルをするように頑張るから」


「私も、ナマエ様に名前を呼んでほしいです」


まるで幼い子供のように目を潤ませる。
優しく今度は私が二人を撫でて。
ここの部屋ではそういうルールだから。


「勿論。だからお仕事、いってらっしゃい」


渋々仕事に取り掛かるために開いたドアの隙間から蛍光灯の明かりが入ってくる。
眩しすぎてもう近づくのも躊躇われる明るすぎるそれ。


誰に言われなくても自分でよく分かっている。
私の身体はもう世界の流れに着いていけない。
この暗い部屋から出ても、何一つ願うことも叶うことも未来を見ることも出来ない。


閉まるドアをただ見ることしか出来ないのだ。


翼を折られたレシラムやゼクロムが二度と大空を舞うことが出来ないように。
そのようにされた私の身体もまた、世界に戻ることを許されない。


忘れたはずの水が、頬を濡らした気がした。






世界に溶けた部屋
(誰も振り向かない場所)



→お礼




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