そう言った男は何故かとても穏やかな表情をしていた。
「あんた“死の番人”だろ?頼みたい事がある」
ピクリとリーヴェの肩が震えた。
彼女のその名を知り、頼むなど、普通有り得ない。
だが、ある特定の者はそれをする。
リーヴェにとって専門分野でありながら、最も苦痛を感じる仕事。
それが。
「とある奴らを殺ってほしい」
──身内狩り。
所謂、自殺の手伝いだ。
死刑執行人の裏の仕事、とも言える。
本来それは眞魔国に刃向かう可能性のある魔族を亡き者にするためにあった仕事。
“自殺”という名目の下行われる狩り。
けれどたまに舞い込む内容の一部に。
希望が含まれるようになった。
主に、彼等のような境遇の者から。
それは妻や子供を、もしくは恋人を奪われた者や。
知りもしない借金に追われた者。
人質を他国へ取られた者。
理由はそれぞれだが。
ともかく逃げられない所まで追い詰められた者の、最後の砦として。
確かに存在するのだ。
「頼む。せめて、眞魔国で」
──返りたいと願った場所で、最期を。
それが在るべき慈悲なのか、リーヴェには分からない。
いや、多分誰にも分かりはしない。