俯いているコンラートの表情は図れない。
どうして彼が“異世界”へ行くことになったのか。
どのような任務なのか。
リーヴェが知る由もない。
それがあの“スザナ・ジュリア”の魂を次期魔王陛下、渋谷有利に受け継ぐための任務だとは。
だが、唯一、彼の発するピリピリとした緊迫感から、彼が未だに自身を警戒していることだけは伺えた。
“事件”が起こる前までは受けたことがあまりないそれに、彼女の心は早くも押し潰されそうになり。
後悔と緊張で身体が強張る。
しかし、精一杯勇気を振り絞ると、ギュッと両手を握って真っ直ぐコンラートを見た。
「あの、明日から異世界へ行かれると聞きました。その、隊長に謝りたくて。どうか、お時間をくれませんか?」
迷惑にならないようにと、早口で紡がれる震えた声。
普段のリーヴェからは考えられない声は、芯が通っているものの、決して弱々しさをカバー出来るものではなかった。
何故なら場合によれば無視はおろか、斬り付けられても可笑しくはない状況なのだから。
しかし、そうはならなかった。
彼女の発言に、コンラートはゆっくりと伏せていた顔を上げる。
その瞳はまるで、獲物を狙うような鋭い獣の瞳をしていて。
ドクリと痛いほど鳴る心臓を抑え、リーヴェはその威圧感に今にも倒れそうな身体を必死に保ち、瞳を反らさないよう、彼を見詰めた。
「今更だ」
「えっ?」
「俺はジュリアを、お前の盾にするために頼んだつもりはない」
その強すぎる瞳と言葉にリーヴェは身体を震わせガクリと座り込んでしまった。
「あっ……」