教室のドアががらりと勢いよく開く。
八時十五分。


何時もズレないその時間。
牧は無意識にドアを見た。
彼以外は、誰も見ない。


一拍置かず、誰よりも大きな声で叫ばれた一言。


「牧くん、おはよう!!」


「……おはよう」


毎日変わらない無駄に大きい声と、何が楽しいのか満面の笑みで言われる挨拶は、ご指名の通り、牧にだけ向けられたものだ。


始めこそ驚いたものの、毎日続けば、それも日常。


誰も言わないが、牧もまた、朝練があるにも関わらず八時十五分までには教室の自分の席に着席している。
誰も言わないが、葉月もまた、牧が教室に入るのを確認してから、八時十五分ぴったりに教室のドアを開ける。


その異様な挨拶が終われば、それからはお互い普通のクラスメイトだ。
別段何かが起こるわけでも、何かを起こすこともない。
朝だけの特別な日常。


だった。
少なくとも、昨日までは。



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