苦笑して科学室の丸椅子に腰掛ける仙道。
仙道彰の噂。
それは、彼が“物理の授業だけ”真面目に受けるというものだった。
きっかけは仙道が物理係を担当してから。
担当になってから、何故か彼は授業の確認だけではなく、毎日こうして授業後に科学室に現れ、その日使用した実験器具の片付けと明日の準備を手伝うようになった。
始めは葉月も驚いて戸惑ったが今は違う。
仙道の意図に気付いてから、は。
「ね、今度デートしよ?」
「田岡先生の許可があるならね」
「やっぱ意地悪」
そう言ってもクスクスと笑う仙道。
こういった会話さえも楽しんでいるようだ。
が、突如、空気がピンと張り詰める。
「でも、ちょっと本気なんだけどな」
仙道が、そう言って気付かぬうちに葉月の後ろから、彼女の両手を掴んだから。
190センチある仙道と、150センチもない葉月。
圧倒的な体格差に一瞬葉月の身体が震えた。
「ね?“兎センセー”」