最近、あの仙道彰が真面目に授業を受けていると専ら噂が流れていた。
“あの”に含まれる部分には、遅刻魔とか、女タラシとか、男子バスケ部のエースとか。
そういった言葉が入るのだが。
ともかく、色々な意味で要注意人物である仙道が、まるで優等生のように授業に出席している。
これが、本当に優等生のように全授業に出席しているのなら噂なんて流れないだろう。
常に陵南のゴシップの中心にいる男。
今回だって、その名は伊達ではなかった。
「葉月ちゃん、これもいる?」
「“結城先生”は、それも欲しいです」
ニッコリと人の良さそうな笑顔で試験管を渡す仙道。
それにニッコリと笑い答える結城葉月。
陵南高校の物理担当の教員である。
去年、仙道の入学と同時期に陵南に就任した若き先生。
外見は女性にしても小柄な部類に入る小ささ。
けれど、その性格は対照的でさっぱりとしていて、男子にも女子にも人気の先生である。
「葉月ちゃんさ、最近の噂知ってる?」
「政治の話?事件の話?それとも、来週の中間テストの話かしら?」
「意地悪だなぁ」