早く、目覚めて。
これは、夢だ。
良くない夢なのだから、早く現実の世界へ戻らなければ。
何度そう思っても、恐ろしい眠りから解放される兆しが見えない。
背後からかけられた生暖かい吐息にブルッと身体が震えた。
「諦めてしまいなさい」
男の、テノールの声が耳から身体を駆け巡る。
あまりの色気に身体が強張れば、何が良いのかクスッと歓喜の声が聞こえた。
──あぁ、早く夢から目覚めなければ。
白いシーツに身を埋めて震える葉月は、肉食獣に狙われた兎のよう。
その可愛らしい兎へ肉食獣さながらに覆いかぶさる男──赤屍は、彼女が逃げられないよう、しっかりと顔の横に手を当て、自身の長身で葉月のささやかな抵抗を押さえ付けた。
「い……嫌ですッ!!」
葉月にとっては、本当の“動物”のように生命まで奪われてしまったほうが楽なのかもしれない。
この危険極まりない“肉食獣”は命が消える一歩手前で獲物をいたぶり、手中に納めるさまを喜々として楽しむ趣向があるのだから。