以前、何度か行ったことのある珈琲の美味しい喫茶店で、何度か顔を合わせた美貌の男。
話したことこそなかったが、喫茶店での噂を横耳に聞いた評価はあまり良いものではなかった。


だから、あまり関わらないようにとも思っていたし、関わる事もないと思っていた。


……さっきまでは。


「おや、貴女は確か……葉月さんでした、ね?」


「はい、お久しぶりです」


名前を覚えられていたとは思わず、葉月は驚いた表情をしたが、それは自分もだと思い出し、笑顔で返す。


「お仕事の帰りですか?」


夕方という時間帯を考えて、今から仕事とは考えがたい。
むろん、それは赤屍の“本業”を知らない葉月の考えである。
本人はいたって無難な質問をしたつもりだった。


……つもりだったのである。


「えぇ。葉月さんは今から晩御飯ですか?」


「はい、今から買い出しに行く所なんです」


晩御飯の支度をしていても可笑しくない時間帯に買い出しに行くなど、本来なら誰にも見られたくはない気恥ずかしさに思わず苦笑した。


「そうでしたか。葉月さんさえ良ければご一緒させていただいてもよろしいですか?」



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