だが、突然何の前触れもなく現れた肉食獣が、そう簡単に獲物を逃がすはずもなかった。
受け入れがたい現実の、あまりの恐怖に、ひくっと喉を鳴らし葉月は涙を流す。
ぽたりとシーツに落ちたそれを、赤屍の白く長い指がなぞった。
「怖い事はしませんから、安心してください。ね?」
葉月にとっては“怖い事”に間違いないのだが、相手はそうは思ってくれないらしい。
その証拠に赤屍の手は獲物を落とすために進攻を始めた。
「やだッ、止めてくださ……ッ!!」
何故こんなことになってしまったのか。
葉月は自身の行動を呪わずにはいられなかった。
たまたまだった。
たまたま今日の晩御飯をと、買い出しに出掛けた新宿で。
これまた、たまたま偶然にも街中でぶつかってしまった相手。
それが赤屍だった。
「赤……屍さん?」
黒い脚丈まであるロングコートにつばの長い帽子。
およそ一般人では着ないと思われる衣服に身を包んだ赤屍。