洞府に戻れば何時来たのか、葉月が大判の布を持って待っていた。
中からは食べ物の匂いが漂い、もう何時からそれが普通だと感じていたのか、改めて痛感させられる。
「先に楊ゼンをきちんと拭いてあげて。風邪引いたら大変でしょう?」
「でも、僕あんまり濡れてないよ。師匠の方が──」
“いいんだよ”
楊ゼンを撫でてそう言えば、少し頬を膨らませて、ぶぅというその姿に、知らず笑みが零れた。
愛弟子に対する理解も、私に対する想いも、少し傲慢に思えるくらい愛おしくて。
ふわりと振り向きざまに向けられた笑顔に、何度でも恋をしてしまう。
「お帰りなさい」
可愛い弟子と、愛しい恋人に包まれた洞府は確かに、此処に存在した。
例え、どれだけ時が経とうとも。
この先、何が待ち受けていようとも。
確かにこの瞬間、永遠を信じずにはいられなかった。
「僕、大きくなったら葉月さんと結婚する」
と、楊ゼンが言うまでは。幸福はいつも傍らに(傍らにあったんだ)
お題拝借:たとえば僕が 様