シエルを護ろうと彼を庇った家庭教師は、パンッという音を聞きながら意識を手放した。
──全く。
全くこの二人は無防備にもほどがある。
自らの主であり獲物でもある“坊ちゃん”は、私を試しているのか、それとも本当に信用しているのか分からないが、どうも緊張感が足りない。
仮にも“ファントムハイヴ”の当主であり、何時何処で何があっても可笑しくはない立場であるにも関わらず。
先日の一件で、少々“楽しみ”が増えたかと思ったが今日の結果を見る限り、やはり、まだ可愛らしいだけの芋虫のようだ。
だが、まだ彼だけならば構わない。
どういう獲物であれ、彼はまだ“主”なのだから。
ギィという音をたててセバスチャンは観音扉を開けた。
そこにいるであろう主人と、主人の家庭教師を思い描いて。
「お邪魔致しております」
「……!?」
甘い声が部屋に響く。
イタリアマフィアのアジトに突入したとは思えない、そのさして緊張感のない優雅な口調。
「主人と彼女を迎えに参りました」