セバスチャンが黒のコートを脱ぐと、そこには可愛らしく眠る、少女が抱きかかえられていた。
シエルは一瞬それを見て驚くが、何でもなかったかのように、読んでいた本を閉じ、屋敷の玄関の門を潜る。
それにセバスチャンが続くと、シエルは足を止め、後ろを振り向かずに、溜息を吐き、言葉を零した。
「“ペット”は一匹までだと言ったはずだな?」
その言葉にセバスチャンはニヤリと怪しく微笑み、ハヅキをもう一度見詰めてから、庭の方に目を移した。
「心得ております」
その後、庭でよく目にしていた黒い猫を屋敷内で見ることはなくなり。
その代わりに、深夜、シエルが眠ってから、誰にも聴こえない屋敷の地下で、一匹のペットが今日も可愛らしく啼いているのであった。
朽ちた教会は既に悪魔を払うほどの力を持っていなかった。
清らかな少女の祈りが悪魔の好物だったかどうかはさておいても。
少女は神の加護が届かぬ所へ落ちたのだった。祈り(誘われたものは神でも使者でもなく)