彼女を皮切りに、ソーマもまた、たまらずシエルに抱き着く。
自身より幾分か幼いシエルの、大切なカーンサマーがこの世から消えて、彼の心が一人ぼっちになるのを案じて。
その後ろでは、フィニとメイリン、アグニが声を堪えて泣き。
バルドもまた、涙こそ流さないものの俯く表情は暗かった。
彼等を横目に、葉月は一人墓石の前に立つ。
黒のハンカチで目元を抑え、涙が流れないように必死に我慢して。
そして、誰にも聞こえないくらい小さな声で、セバスチャンに問い掛けた。
「セバスチャンさん……ズルイです。私……まだ…」
──まだ、大切な事を伝えていないのに。
ぽたりぽたりと、止めどなく流れていく涙。
後悔しても、もうセバスチャンと話をするどころか、顔を見ることも、彼が帰って来ることもないのだ。
バルドに無言で肩を抱かれ、強制的に皆と共にそこを後にしようとした。
……時だった。
チリリーンと、有り得るはずのない音が、空気を切ったのは。
「お墓のベルが鳴ってる…?風もないのに…」
「おやおや、そんなにのんびりしてていいのかい?あのベルが鳴るってことは、彼まだ生きてるよ」