言葉につられるようにヒュッと風が吹き、エントランスを照らしていた燭台の火が幾つか消えた。
少し暗くなっただけのはずだが、寒気がするほど温度が変化し。
彼の、セバスチャンの紅茶色の瞳が印象的に暗がりに輝く。
「流石はハロウ・イヴ。まさか天使がいらっしゃるとは、ね」
口角が三日月のような形を象ると。
ハヅキは無意識に一歩後ろに下がった。
「ど……して、天使、だと?」
謎の恐怖からか、重圧に彼女の頬を冷や汗が垂れる。
勝手に震え出す足に、何とか意識を向け、力を入れて。
身体と感覚の全てが、初対面の執事を危険だと警告し出す。
ハヅキのあからさまな変化に、クスッと笑みを零して、セバスチャンは彼女が下がった分を詰め寄った。
「“どうして”?そのように清純で清浄な気を纏っていれば直ぐに分かりますよ」
その、セバスチャンの言葉に思わずハヅキはきょとんとしてしまう。
本能が危険だと警告していることを分かってはいるが、通常の人間に天使の纏う空気が分かるはずもない。
「まだ随分と若い天使ですね。ハロウ・イヴに開いたゲートを、間違えて通ってしまったのでしょう」