「そーですよー、しっかりと手綱を掴んでー」
「はーい」
眞魔国は晴天。
青空が広がり、雲がちぎれちぎれに流れていく。
血盟城から少し離れた草原まで馬を走らせると葉月をゆっくりと地面へ降ろし、ヨザックは共に彼女の隣へと座り込んだ。
「風が気持ち良いね」
風に靡く黒髪。
制服のプリーツスカートを手で押さえながら座る少女。
目を合わせれば、その吸い込まれるような闇色をした瞳が見詰め返す。
双黒。
生涯で出会えれば幸福なくらい、希少価値が高いその色をしたヒトが今まさに目の前にいる。
奇跡としかいえない状況だが、もうそれに驚く事もなくなった。
寧ろ今は“ハヅキがいる”という現実を喜ばしく思う。
普段帰国していることが多い魔王陛下とその姉君が、眞魔国に滞在している事こそ珍しいのだから。
「姫さん、乗馬も上手くなりましたねー。坊ちゃんよりお上手なんじゃないですか?」
「まだ一人で乗れないのに?」
ピンク色の頬をぷくりと膨らませる。
クマハチとまではお世辞にも言えないが、その丸みを帯びた頬は食べてしまいたくなるほど、美味しそうだ。