「なっ!?姫さッ──」
「声大きい。ほら、踊るわよ」
否定など許されないようで、勝手に葉月が一歩踏み出すとヨザックも条件反射でステップを踏み出した。
葉月が男性パートを。
ヨザックが女性パートを難無く踊る。
葉月のエスコートは普通の男より何倍も上手く、実に踊り易かった。
こんな風に出来るのは多分教師が──コンラートが教えたからだろう。
そう、予想を付ける。
視線を落とせば、そこには何時もの綺麗な双黒の姫君ではなく。
赤茶色の髪に青の瞳。
化粧によってきりりととした顔。
ベルベットの仕立ての良いフォーマルスタイルに、淡い同色のレースをふんだんに使ったシャツを着た、坊ちゃんがいた。
「どうして此処へ?」
「“どうして”?貴方が参加するからに決まってるわ」
「何で男の格好を?」
「グリ江ちゃんと踊るためよ」
「何言ってるの?」と、馬鹿にされそうでヨザックは口を噤む。
有利よりも破天荒な行動に脱帽だった。
曲が緩やかに消えていく。
ステップも習うように止まると、葉月はグッとヨザックの顔に近付き──