「嬉しいお誘いですけれど、今日は少し──」


「すみません。彼女は私の相手です」


笑顔でやんわり断ろうとした所で、随分高い声が間に入った。
相手はヨザックの手を手慣れた仕草で自身に移動させ、男の前に立つとそう言い放つ。


かなり小柄な男で、赤茶色の長く綺麗な髪を下ろしていた。


──誰だ?


有利ではない。
寧ろ有利より線が細く、本当に男かと疑問になるくらい不思議と惹かれる何かがあった。


彼は細く白くしなやかで汚い物など知らないような手で、ヨザックのそれを軽く握ると、


「では、失礼します」


と男に告げて、ヨザックの気持ちなど関係なくダンスホールへとエスコートした。


「あの、私っ──」


位置に付き、相手が自身より幾分も大きいヨザックに手を回して、さて一歩を踏み出す、という所で慌てて制止をかける。
見ず知らずの男と踊るより、コンラートの所に行かなければいけないから。


が、相手が不敵に笑うと、初めて相手の顔を確認し、ヨザックはその顔を蒼白させた。


「私の誘いを断るつもり?」


意中の愛しい想い人である葉月がそこにいたから。



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