第2章・1−12 

「城戸に首を絞められる、ねぇ……」
 私は凍てつくような目をした城戸に、ぼろくそにこき下ろされながら首を絞められる状況をイメージしてみた。
 白い蛇のような城戸の手が、私の首筋に巻き付いていると想像するだけで、背筋がぞくぞく震える。
 気がつくと私は喉元をおさえていた。なにかが首に触れているような錯覚がおぞましかった。想像するだけでも、こんなに気持ち悪いだなんて。
 でも、頭の片隅で「案外悪くないかも」と思っている私がいた。
 きりりと整った顔立ちの城戸になら、多少心身ともに苦しめられても、かえって興奮してしまいそうだ。もしかしなくても、私はかなり重症なのかもしれない。

 私は返事の代わりに、あいまいなほほえみを陽太郎に向けた。陽太郎にウソをついてもすぐにバレそうな気がしたから、ムリしてうなずいたりはしなかった。
 気になる相手への対応を改める気のない私を見て、陽太郎は諦めたように肩をすくめた。私をたしなめる気力も尽きたのか、なんの言葉もかけてこない。

 私がそろそろ陽太郎も帰るだろうと予測していると、陽太郎は「あ、そうだ」と不意に声をあげた。
 陽太郎は一瞬にして真剣な面持ちから、普段どおりのかろやかな表情に戻っていた。
「笹ちゃん、城戸くんについて知りたいんだよね?」
 親切そうな、けれどもなにか企んでいるようにも聞こえる口調で、私に確認してきた。
 私が「もちろん知りたい」と大きくうなずくと、陽太郎は満足そうな笑みをのぞかせた。
 陽太郎の質問の意図はよくわからない。でも、今の私はなんでもいいから城戸について知りたかった。弱みだったら、なおいいのだけれど。

「だったら、覚くんから城戸くんの話を聞けばいいよ」
 にっこりと目を細めながら、陽太郎は私たちのクラスメイトの名前を口に出してきた。
 意外な人物が話題に上がって、私はぽかんとしながら陽太郎の顔を見返す。
「さとるくん……って、つまり青地くんだよね?」
 青地くんは弓道部の部長で、たいてい陽太郎といっしょにいる男子だ。
 私とは友だちではないけれど、陽太郎という共通の友人がいるから、世間話くらいならたまにする。
 頭も性格も人当たりもすごぶるよくて、いろんな意味で城戸とは接点のなさそうな人だ。

 私は首をひねる。
「なんで青地くんなの?」
「覚くん、城戸くんと知り合いなんだよ。友だちではなさそうだけど……」
 単刀直入に質問すると、陽太郎は簡単に説明してくれた。つまり、陽太郎は青地くんを通して、城戸の存在だけは知っていたらしい。
 私は「へぇ」と感嘆の声をもらす。意外なところで、ひととひととはつながっているものだ。
「とても有用なお話をありがとう」
 私はかすかに熱を帯びた口調で、陽太郎に礼を告げた。表向きは平然としているけれど、陽太郎からのありがたい情報に、私の鼓動が速くなった。

「じゃあ、明日、青地くんと城戸について話してみるね」
 私が意気揚々と陽太郎に伝えると、陽太郎は笑みの色をますます濃くした。
「笹ちゃん、俺に感謝してる?」
「してるよ、心の底から」
 私ははっきりとした口調で答える。
 よどみない私の返答に陽太郎は気をよくしたようだ。弾むような手つきで、私の肩を軽く叩いてきた。
「じゃあ、覚くんに『城戸くんに興味がある』ってはっきり伝えといて」
 陽太郎は軽快な口調で私に頼んできた。
 私は「どうして?」と陽太郎の顔を覗き込む。なんで、第三者である青地くんに、私が城戸に対して抱いている感情を伝えなければいけないのだろうか。
「俺さ、もし覚くんと笹ちゃんが仲よくなっちゃったら、絶対にイヤだから」
 しきりに首をひねる私に、陽太郎はひだまりのような笑顔で言い放った。

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