*異界入り



『牧野さん、じゃまです!』


「ごっ、ごめんなさいぃ…」


その辺で拾った棒で、名無しは屍人を殴る。
ひるんだ屍人を見て、彼女は牧野の腕を掴み、走って逃げた。


『ここまで来たら大丈夫かな?』


二人は草陰に隠れた。
安全を確認するため、名無しは視界ジャックをし屍人がいないのを確認する


『…これからどうしましょうか』


牧野さんを見ると、小刻みに震えていて怯えている目で私をみる
どうみても様子がおかしい。
直感だが私が恐くて怯えてる訳じゃない、何かを隠して罪悪感を抱いてる目だと思った。


『牧野さん、なぜこんな事が起きたか知ってるんですか?』


「し、知りません…」


『へえ、そうには見えないなあ』


「本当なんですっ…」


『儀式の関係…ですか?』


びくりと牧野さんが震えた。
私はビンゴだと思い、自然と口角が上がる。

『当たりですね…』


「…うっ…」


牧野さんは観念した様で、首を縦に振った。
それから、彼はしどろもどろになりながらも儀式の事を説明した。
神代家と教会、神の花嫁、そして村の災害について…
彼は、災害の事を話すと時折泣きそうになって説明する。


『貴方の話しからすると、儀式の失敗でこんな事が起きたんですね』


「っ…兎に角もう一度儀式をやり直せば」


『ソレ、意味があるんでしょうか?』


牧野さんがきょとんとした顔で私を見る。宮田さんはこんなマヌケな表情はしないだろうな

名無しは彼に構わず話を続けた


『大昔から犠牲にしてきたのに、今更許しをこう事ができるのかと疑問に思ったんですよ』


「わ、私は八尾さんに言われた通りにしたまでですっ!」


『でも決めたのは貴方でしょう?』


ぐっと牧野さんは黙った。
表情をみると、さっきとは打って変わって私に敵意を現してる


「あなたに、私の苦しみが…重荷がわかるはずないっ!」

『…』


「私はただ求導師としての務めを果たしただけ…もしできなければ」


『あなたの命がなかった…という事ですね』


私がそういうと、牧野さんはうなだれた。泣きじゃくる声が聞こえる。
彼の生きていた27年間は、ずっと村のしきたりによってしばられてきたのだろう。
そう考えると、彼がいたたまれなくなった。
こういう時は優しく言葉掛けるべきだと思うが、この状況下では薄っぺらく偽善的に感じて私は何も言えなかった
だけど、このままじゃ彼は…


『牧野さんっ!』


「…はい」


『ここから出ましょう』


考えるより、先に口が出てしまった。
ここから脱出できる保証なんてどこにもないのに、口走ってしまった事を後悔するが私は止まらない


『村からでて、都会に行きましょう!たくさんいいものがあるんですよ!映画に漫画、服に食べ物屋さん!私のおごりでいいですから一緒に行こう!』


「でも…」


『ん〜じゃあ海外ですか?ヨーロッパ!フランスにイタリア、私のオススメはポーランドですね!いや、スイスもありかな…』


「名無しさん」


『はっ!牧野さんこの村出た事ないでしょ。なら日本中を旅をしよう!有名なお寺や温泉地に行かなくては…』


「名無しさんっ!」


がしっと牧野さんに両肩を掴まれ、私は我に返った。
頬には冷たいものが伝う感覚…無意識に私も泣いていたのか


『うっ…ぐっ…牧野さん』


「名無しさん、ありがとうございます」


私は牧野さんに抱き寄せられ、両手を彼の胴体に回す。
意識はしてなかったが、私よりも一回り大きく改めて男なんだと思った。
なんとも言えない匂いに、私は包まれた。汗と彼自身の匂いなのか、とても心地よく感じる


「名無しさん…うっ…ぐすっ」


『牧野…さん…頑張ろう…この村から出よう』


私は彼の顔を手で支え、口づけをした。最初は遠慮がちにしていたが、彼も積極的になり、深く激しいキスをする

つかの間の安らぎだが、乾いた砂に水をかけて潤ったような…そんな感覚に二人は陥ったのだ。

この世界は永遠に周り続けてる事に気づかずに


   




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