*夢主、具現化系です。




ウイングはいつだって紳士だ。相手への敬意は払うし、言葉使いも綺麗。
そんな彼にだって短所はある。それは、シャツがはみ出たり、髪の毛がボサボサといっただらしの無い所や、一度決めた事は変えないといった頑固な一面もなど。


「アンタって、本当ウイングが好きねぇ〜」


『師匠、声大きいですよ』


私は今、ビスケ師匠に誘われて、お洒落なカフェに来ていた。
久しぶりにあった師匠だけど、相変わらず元気で、見た目も一段と若返った気がする。


「あの寝ぐせボーヤは、鈍感だからね。乙女心なんて気づかないわよ」


『あははは・・・』


「アンタ等二人を見てると、嫌になってくるわさっ!ストレス溜まりっぱなしよ!」


師匠は、さっき頼んだジャンボパフェを、スプーンでつつく。見るからに不機嫌だとわかる。こんな機嫌の師匠と修行はしたくないな


『ウイングだって、今は弟子を持ってるし・・・』


「そんなの唯の言い訳!あのバカウイングの事だし、名無しがアタックしないと進展しないわさっ!」


『ア・・・アタック?!』


無茶言わないで下さいよ。私だって青春を修行に捧げたのだから、何処ぞの恋愛漫画のような駆け引きなんてできるわけないじゃないですか
名無しはそう言ったつもりだが、実際は情けなく唇を上下に動かしただけで、ビスケにはなに一つ伝わらなかった。


「ったく、アンタも情けないわね。それでも私の弟子かしら。」


『ひ、ひどいですよ!』


「あんた、具現化系でしょ!具現化系の主な修行を言ってみなさい!」


びしっと、ビスケは名無しに指を指し質問した。それにうろたえながらも彼女は必死で答える。


『主に・・・イメージ修行です』


「正解。つまりわね、恋愛も一緒。手始めに、ウイングと恋人同士になったとイメージしなさい」


『イメージ・・・ですか』


「そぉーよ。デートに映画でも見るのもよし、一緒に散歩に行くのもよし、考えてみる事だわさ」


ビスケ師匠は私にウインクをして、ストローでジュースを飲む。
名無しは必死に頭を回転させた。けれど恋愛経験が乏しい彼女にとって、恋仲とはどういった事をするのか、検討もつかなかった。
具現化系の修行ならば、具現化したい物を触って舐めたり、写生すればおおよその形を捉える事ができるのに


『・・・無理でした』


「やっぱり無理?」


『はい、すみません』


名無しは申し訳なさそうに、頭を下げ、コーヒーを飲む


「これじゃあ、いつまで経ってもあんた等の子どもの顔が拝めないじゃない」


突然のビスケの爆弾発言によって、名無しはコーヒーを吹き出してしまった。おまけに気管にも入り、苦しそうに咳をする。


「きったないわね、そんなに照れる事ないでしょ?」


『だ、誰の・・ゴホゴホッ・・せいで』


「決めた!あたしが、名無しとウイングを付き合わせる!」


『そ、そんな無茶苦茶な!』


「なに?なんか文句あんの!?」


ビスケの気迫に圧された名無しは、情けない返事しかできなかった。
それに満足したかのように、彼女は店の会計をし、名無しを腕をひっぱりながら走った。


「さあてと!まずは名無しをオシャレにしなきゃね!乙女の血がさわぐわさ〜」


『えっ!ちょ、師匠!』


軽やかにステップをしながら歩くビスケと、対象的に名無しの足取りは重くこれから起こる事を想像して、小さくため息をはいたのだった


   




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