最低な出会い(1/1)



カーテンの隙間から入る光によって、目覚める。時計を見るとまだ六時を回っておらず、もう少し寝ようとなまえは思い寝返りをうつ。
その時、彼女の目は見開いた。そこには見ず知らずの男が裸で眠っていたからだ。
思わず、なまえは叫びそうになるが手を口に当てて止めた。そして自分の身体も裸だとわかる。

『うそ・・・でしょ?』


なまえは寝起きの頭を必死で回転させ、昨日の事を思い出そうとする。
仕事帰りで、同僚と飲みに行った。そこまでは思いだせた。問題はそれからだ。何一つ思い出せない。考えれば考えるほど頭が痛くなる。

私は酔って知らない男と情交する様な淫らな女なのか。

なまえは自身のガードの低さに絶望した。それから育ててくれた両親の顔を思いだし、酷い罪悪感が彼女の胸を襲う。
なまえが唖然と座りこんでいる時、男は彼女の方向に寝返った。
なまえは観察する様に、男を見つめる。


男にしては細い髪質の黒髪で、端正な顔立ち。身体も鍛えており、引き締まってる。
中々の色男だとなまえは、素直に思う。だがすぐに我に帰る。
どんな良い男でも、知り合ってもないのに性交するとはモラルが崩れてるし、人間としてどうかと思ったからだ。

それから、どうしようかとなまえは悩んだ。自身はこの男と知り合った経由も覚えてないし、何もわからない。
悩んだ末、この男を起こし事情を聞こうと考えた。


『あの、すみません!起きてください』


「んっ・・・」

男は眠たそうに、目を擦る。
そして近くにあった時計を見て、あくびをした。


「まだ5時じゃない、もう少し寝かせて」


『ちょっと!寝ないでください!』


なまえは二度寝しようとする男を揺すり阻止した。
それでも眠たそうなので、埒が空かないと思いジャージを来て台所に向かう。
コーヒーの入ったカップを持ってくると、男はいつの間にか服を来ていて、窓の外を眺めていた。


『・・・コーヒーどうぞ』


「ああ、ありがとう」


なまえは男にコーヒーを渡すと、自身もカップに口付けた。
苦味が口にひろがり、頭が冴えてくる。一息ついた所で、なまえは決心し男に質問した。


『あの、昨日の事覚えてますか?』


「昨日?普通に覚えてるけど」


『私、全然記憶ないんです。同僚と飲みに行った所までは覚えてるんですけど・・・』


「君、凄く酔ってたもんね?平気だった?」

私自身、酔う経験は何度かあるが今日の様に記憶を失うほど酔った事はなかった。
そこまで飲んでいた私に、内心酷く驚いたが顔には出さない様にする。

『今は大丈夫ですが・・・その、なぜあなたが私の家にいるんですか?』


「酔った君を懐柔したからだよ」


『へっ?懐柔?』


予想と外れた応えに、なまえは間抜けな返事をした。それを見た男は、クスクスと笑い、話を続ける。


「酔った君が俺に絡んできて本当、困ったよ。喧嘩は売る、おまけに俺の服にゲロっちゃうし」


『す、すみません!その、同僚は私を止めてなかったんですか?』


「同僚?俺がいた頃は君、一人だったよ。先に帰ったんじゃない?」


『・・・・』


なまえは自分の行いの酷さに、言葉が出なかった。それに同僚にもこの男の人にも迷惑を掛けただろうと反省した。だがその反面、性交はしてないという可能性が出てきて彼女は安堵する。



「まあ、別にいいけどね」


『本当、ごめんなさい。弁償します』


「いや、いいよ。男が女に弁償してもらうなんてかっこ悪いし」


『いや、必ず弁償します。でも内心、ホッとしてるんですよ。見ず知らずの貴方と行為をしてないと思って・・・ん?』



なまえはふと疑問に思った。
話の内容からすると、服を汚された彼が裸なのはわかる。
だけど、なぜ私まで裸にならないといけないのか?しかも、二人とも裸でベッドに寝ていたし・・


『聞き辛い事、聞いてもいいでしょうか?』


「なに?」


『私と貴方って、行為をしてないですよね・・・』



二人の間に沈黙が走る。
長い沈黙を見兼ねた男は、ゴミ箱を指差す。
なまえはそのゴミ箱を除くと、表情が固まる。
そこには使われた後の避妊具が捨てられていた。


そこで我慢出来なくなったなまえは、ボロボロと泣き崩れた。
罪悪感はあったが、それが具現されたようで彼女の心を深く刺したのだ。


「ごめん、嫌だった?」


男は心配そうに訪ねる。


『嫌とか、そんなんじゃないです』

なまえは嗚咽をはきながら、必死に応える。


『見ず知らずの男と、するなんて、私は最低の女です・・・』

止まらない涙を必死で抑えるように、目を擦るが止まらない。
その時、コーヒーの香ばしい香りが漂う。
目線をあげると男がカップを渡してきたのだ。


「飲んで一旦落ち着きなよ」


男の言葉に、心の中で落ち着いてられるかと毒づくが、素直にカップを受け取りコーヒーを啜った。


「あんた、名前は?」


『なまえです』


「俺はクロロ・ルシルフル。宜しくな」

『はあ・・』


なまえは自己紹介する男に生返事をした。それが順序として先だろうと、突っ込みたいがそんな気力もなかった。


「なまえ、これであんたと俺は見ず知らずの他人じゃない。」


『・・・』


「ご不満な様子だね?なら、お互いを深く知るように付き合ってみないか?」

クロロの唐突な提案になまえは驚きそして呆れた。

『何言ってるんですか!知り合って間もない他人と付き合うなんて』


「その前に、俺達はもう繋がってしまったからね?ただの他人ではないよ」

確かに彼のいう事は間違ってはないが、もう少しマシな出会い方があったんじゃないかと思いなまえはじとっとクロロを見る。
そんな彼女に気にせず、コーヒーを美味しそうに啜り綺麗に笑った。

「返事は?」


なまえはクロロに返事を催促され渋々応える

『・・・わかりました』


クロロは、彼女の小さい返事に満足し窓の景色を眺めた。
外では鳥の鳴き声やバイクの音が、部屋に小さく響いた









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