アカギさんはずるい。
いつも私に期待をさせては、見事に裏切る。
例えば私の家に泊まりに来たと思えば、翌朝にはテーブルに札束を置いては居なくなる。
私には到底稼ぐ事の出来ない厚みのある札。そしてまたアカギさんが来るのを唯々待つしかない。
買い物が終わり家に帰ってきたら、リビングでのんびりとアカギさんはタバコを吸っていた。久しぶりに会ったアカギさんは髪が少し伸びていて、気のせいか痩せた気がする。
『アカギさん、来るなら連絡してくださいよ。夕食のご飯が足りなかったらどうするんですか』
「別にいいよ。最近お腹空かないし・・・」
『よくないです。』
「ここでのんびりするのが一番だ」
ほら見ろ。またそうやって私が喜ぶ事を平然と言う。人の気持ちも知らないであなた
は私を惑わするんだ。
私は紛らわす様に、夕食の準備に取り掛かった。
出来上がった青椒肉絲をさらに移し替えテーブルに並べる。ご飯に味噌汁、漬物とお茶も。
私はアカギを呼び、床に座った。
黙々と食べている時に、アカギさんの方を見る。日本人離れをした髪色、筋の通った鼻筋、骨張った手、どれもこれも私とは、女とは違う体。
私の視線に気づいたのか、アカギさんと私は目があった。
「なに?」
『な、なんでもないです』
私は誤魔化すように、味噌汁を胃袋に流し込んだ。それでも、アカギさんは私を見つめてくる。
「そういや、あのお金どうしたの?」
『それならタンスの中にしまってます。後で返しますね。』
「あれで欲しいもん買えばよかったのに・・・あんた全然オシャレしないだろ」
アカギさんは心なしかか不機嫌そうに言った。貰ったお金なんて使いたくなかったし、もし使ってしまったらアカギさんと対等になれないと思ったからだ。
『失礼な!私だって稼いでたらオシャレぐらいしてますよ』
「だからお金あげたじゃない」
『私はアカギさんと対等でいたいんです。』
私はアカギさんの目を見ていった。
赤い瞳は宝石の様に綺麗だ。
本当に私ってアカギさんに惚れてるんだなあ。
「へぇ。初めてそんな事言われた」
『そーですか』
「じゃあ、あんたの望むものを教えてよ」
『は?』
「人間には誰しも欲や願望だってある。少なからず、俺はそういった人間を見てきた」
『欲・・・願望・・・』
「基本、俺は我慢が嫌いだ。自分を抑えるなんて愚の骨頂だと思ってる」
アカギさんはお茶を飲み干す。
「名無しだって、本当は俺に何か言いたい事があるんだろ?教えてよ」
アカギさんが私を見据える。
さっきまでとは違う、瞳はギラリと光り、私をじっくりと観察するように
『私の願望を聞いて、どうするんですか。』
「さあ」
誤魔化すように言うアカギ。
それに苛立ちを覚える名無し。
名無しは直感でわかってた。
この人は私の願望を言ったとしても、また何処かに消えて、飄々と現れる。
彼の本質は変わらないんだって
『アカギさん、これ以上私に期待させないでください』
弱々しく言った名無しは、肩をぷるぷると震わせていた。
「期待、しなよ」
『えっ・・・』
「あんたが金ぐらい使ってくれたら、こっちだってもっと深く入れ込めたのに。」
『何言ってるんですか?』
「俺も少しは名無しに、気を使ってたんだ。無理やり襲うわけにもいかないだろ」
『・・・』
「だから、あんたも自分の欲に素直になりなよ。」
アカギさんはタバコを口に加えて火をつける。ボワッとでた煙は、煙たかったが私はただ、アカギさんを見ることしかできなかったのだ