注意これは「天使の囀り」を題材にした内容です。ホラーANDグロ要素ありです!苦手な方は見ないで!むっちゃ長いです…小説の内容を知ってないと意味不明な点が多いですが、それでもオッケーな方はどうぞ!








カイジの場合〜




交通事故で死にかけた彼女は、無事退院し家に帰ってきた。
回復の見込みはないと言われていた名無しが帰ってきてまた同じ生活ができると思うと本当に嬉しくなる。今まで普通だった日常が幸せだったんだと染み染みと感じた。
そう思って俺は名無しのため、ギャンブルから足を洗い何処かに就職をしてバリバリ働いてやろうと決意を固めた

「名無し、生きて帰ってきてくれてありがとう…」


カイジはボロボロと大粒の涙を流し、名無しを抱きしめた。
それに彼女も応える様に、彼の肩に腕をまわす。

『…心配してくれてありがとう』

優しい声音で話す名無しはカイジにとっては天使の様に愛おしく、神々しく見えた。それだけ、彼女が穏やかだったのだ。

それからまた二人の同棲生活が始まった。カイジは名無しに気を使うようになり、だらけていた家事も交代でしたり一緒に買い物にも行った。
二人の生活は順調そうに見えたが、カイジには何処か彼女に違和感を感じていた。

その違和感とは、名無しは交通事故前より気性が温厚になり「怒る」「悲しむ」といった感情を一切出さず、「笑う」事しかしなくなった。
それに時折、名無しは虚ろに天井を見つめたり聞き取りきれない独り言を話す。
カイジが不振に思い尋ねても、彼女は優しく笑みを浮かべるだけで質問に応えたりしなかった。

そんなある日のお昼時、二人はカイジの家でご飯を食べていると名無しは虚ろな目になり、天井を見上げた。
彼女の表情は何かに酔いしれているようで、それがカイジにとって不気味さを際立てる。
我慢できなくなったカイジは名無しに話しかけた。

「名無し、どうしたんだ?退院してからずっと変だぞ!」


『何が変なの…?』

名無しはカイジに顔を向けるが、目線は天井に向いたままだった。

「そうやって、ぼけっと天井見上げたり、独り言をぶつぶつ言ったり…」


『私は正常だよ』


「正常じゃねーよ!交通事故の前のお前は、そんな事してなかった」


俺は事故前の彼女を思い出していた。
こいつは俺と違って真面目な人間で、今の様な症状は一度も見たことがない。

『そんな事?カイジ、あなたには聞こえてないの』


「何が?」


『幸せな音色、何かの囀りの声…』


「名無し、それは幻聴だ!」


『幻聴な訳ないよ、今だって聴こえる。とっても甘美な音が、きっと天使様が私の周りで囁いてる』



名無しは恍惚とした表情を浮かべ、目を細める。
カイジは彼女への危機感をおぼえた。ずっと感じていた違和感は事実で、もしこのままなら名無しはどうなってしまうのか…
そう思い、カイジは名無しの腕を引っ張り自分の体に引き寄せた。


「名無しもう一度、病院に行こう!」


『どうして?』


「お前の言う声なんて、俺には聞こえないんだっ!医者に行ってみてもらおう」


『医者?そんなもの為に行くなんて、私嫌だから』


「はあ?」


『今までの私はわかってなかったの、本物の幸せを』


「戯言は聞かねえぞ!」


カイジはポケットに財布をつっこみ、玄関に出ようと名無しを引っ張るがびくともしなかった。
おかしいと思い振り向いた瞬間、彼女はもの凄い力でカイジを床に押し倒した。
彼は黒服達に抑えつけられた錯覚に陥る程、彼女の力はとてつもなかった。


『カイジ、聞け、私の、話』

乱雑な言葉で話しかける彼女の目は狂気に満ちていた。
カイジは今までにない名無しの変わり様を見て呆然とする


『前の私はね、死ぬ事がとっても怖かったの。しかもカイジと出逢ってより一層死の恐怖が増したんだ』


名無しは片手でカイジを抑えると、空いた手で箸をとった。


『その頃の私は本当に馬鹿…死を、あんなにも恐れるなんて』


「な、何が言いたいんだ?」


『ふふっ結論を急いではいけないよ、カイジの悪い癖。だから昔の私と喧嘩ばかりしてた』


確かに名無しの言う通りだとカイジは思った。それが原因で何度も喧嘩をし、名無しを泣かせていたのだった。
彼女は話しを続ける。


『終わりがあるって素晴らしい事だと思わない?目的に達する、課題をクリアする、それができたら貴方の脳みそはどんな気持ちになった?』


「…達成感とか満たされる感覚」


『正解!危ない橋を渡ってきたカイジにとっては愚問だったね。あの体中を突き抜ける快感、何度味わっても忘れられない感覚』


彼女は興奮しているのか、饒舌に話す。だが俺には名無しが話す事に理解ができず、ただ彼女の話を聞くしかできない。


『それでね、気づいたの私。死は恐れるものじゃない、人間の最大のゴールなんだって!』


「名無し…」


『あああ!天使様、うるさいよ!カイジと話せないじゃん!』


ガシガシと箸を持った手で、名無しは乱暴に髪の毛を掻く。
バラバラと細い髪が床に落ちて行く。
カイジは彼女変わり様に恐れ慄いた。


「名無し、俺のお願いを聞いて病院に行ってくれ!」


『カイジのお願いかあ…うるさい!うるさいんだよおおお!』


「名無しっ!」


『天使様に言ってるの!黙れ、カイジと話せないだろうが!』


彼女が両手を頭に抱えた隙に、カイジは名無しを突き放した。
うずくまってる彼女に構わず、電話機に向かい救急車呼んだ。
症状と住所を急いで教え、電話を切る。

ふと彼女の方向を振り向くと呆然と立ちすくみ虚ろな目でカイジを見つめていた。
カイジの全身に毛が逆立ち、冷や汗が出る。


『カイジ、彼女を突き放すなんて酷いよ…』


「名無し、落ち着け!」


じりじりと歩みよる名無しに、カイジは後ずさりをする。
彼女の表情は無表情だが、それがカイジの恐怖心を煽る

ドンっとカイジは壁にぶつかる。
力勝負で今の名無しに勝てる気などしない。
カイジは逃げ場が無くなったと悟った
それでも名無しはカイジに向かって来る


『カイジ、愛してる』


「名無し…」


『天使様がね、私に言うの。死のうって話しかけるの』


「頼む、名無し!やめろ」


『無理だよお、もう私は天使様にしばられてる…』


「ダメだ、やめてくれっ…」


カイジは目を潤わせふるふると震えた。そんな彼に名無しは、いつもの優しい微笑みを浮かべる


『これ以上生きてると私がカイジを殺しちゃう、だって天使様は貴方を殺せって囁いてくるの』



「なんだよ!そのお前を支配してる天使は!」


俺は声を荒上げてた。
名無しが言ってる事は嘘には聞こえない、だがこんな馬鹿げた事があっていいのか
そう思い俺は拳を握った。頬には涙が伝う感覚。



『ごめんねえ…わかんない』


「名無し…うぅっ…」


ぼたぼたと情けなく涙が滴り落ちる。
俺は弱々しく座り込んだ。



「頼むから…冷静になってくれ」



『…カイジ、私みたいな女と付き合ってくれてありがとう』



「そんな事、言うなよ…」


彼女はカイジに別れ話をしてる様に言う。
重苦しい空気が流れるなか、名無しは笑顔を絶やさなかった。



『私の脳は死の快感を味わいたくて止められない…貴方を殺してから死ぬ事が本望なんだって天使様が囀るの』


名無しは持っていた箸を右目に定める


「っ…おい!」



『でも、私はカイジを殺したくないっ…嫌なの!だからここで死ぬっ!』



その瞬間、彼女は箸で右目を突き刺した。力強く刺した箸は深く入り込んでおり、脳にも突き刺さってることがカイジにも想像できた。
そのまま名無しは後ろに仰向けに倒れて、小刻みに痙攣している


突然の事でカイジは、愕然とした。
何か言葉を発しようにも声もでない。


震える全身にムチをうち、恐る恐る名無しに近づいた。
顔を覗くと、口元は口角を上げているが右目に刺さった箸が痛々しくそこから鮮血が溢れでている。


とっさに俺は、口を手で抑えた。
こみ上げて来るものを必死で抑えようとすると涙がボロボロと流れる
どうして名無しは自殺したんだっ…
頭の中に疑問が渦を巻く。
名無しと今まで過ごしてきた思い出が鮮明になって蘇ってくる。
俺は何度も、何度も目をこするが涙が止まらない。



遠くから救急車のサイレンが聞こえてくる。
遅すぎる登場にカイジは苛立ちや悔しさを覚えるが、怒る気にもなれずにいた

名無しが右目を突き刺す瞬間、彼女は快感に満ちていた表情がカイジの脳裏に焼き付いてはなれなかった


   




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