嫌だ。まだ死にたくない
名無しは迫り来る恐怖に打ち震えていた。彼女は、体を縄で括られており、口内にはタオルが詰め込まれ、ガムテープで固定されている。
「イー眺めだねぇ。」
和也は妖しく名無しに笑いかける。
だが彼女の顔は涙と鼻水でいっぱいで化粧が落ちており、お世辞にも綺麗とは言い難い。
「お前がワリーんだぜ?俺を騙して逃げるからさ」
ゆっくり近づいてる和也に、名無しは怯えるしかなかった。逃げようにも頑丈に縛られてるため身動き一つもとれない。
「クククッ、なんか話す気になった?」
和也は名無しの顔に手を伸ばし、乱暴にガムテープを取る。痛みに彼女は声をあげるが、くぐもった声しか聞こえない。そんな名無しの様子に構わず、口内のタオルを引きずりだし、ペットボトルに入った水を飲ませた。
『はっ・・・はっ・・・』
「名無しちゃん、苦しそうだね。ダイジョビ?」
心配なんてしてない癖に。
名無しは慎重に和也の顔を見る。口は笑っていても、目が笑っていない。
彼女は、今まで使ってなかった脳みそをフル回転し、この状況を逃れられる事を考えていた。
「何、考え事してんの?」
『・・・ごめんなさい』
「・・・はあ?なんだよソレ、謝るぐらいなら最初っからしなけりゃいーじゃん」
『お願い、許して・・・』
名無しは和也に許しを乞う。
当然、非は彼女にある事は自身もよくわかってるが、死ぬのだけはどうしても嫌だったのだ。
『死ぬのはいや・・なんでもするから・・お願い』
「なんでもするのか?」
『!はいっ!』
彼女は目を輝かせた。和也の気が変わったと思ったんだろう。だけど、彼の一言で、名無しの希望は打ち砕かれる
「じゃあ、死ね」
『はっ・・?』
「お前ら、後はお願いね」
和也は黒服達に声をかけ、それに応える様に彼らは会釈をし、名無しの方へと向かう。
『まって!和也!私、まだ死にたくない!』
「あっそ!知るかよ」
『お願い和也!やだやだ!死にたくない!死にたくないよおお!』
彼女の悲痛な叫びは、虚しく響いた。
黒服達によって、右腕を抑えられ右手の動脈に注射をうたれる。
動脈にのって運ばれた毒は、やがて肺や消化器官にまわり、全身を襲う痛みに彼女は襲われた。
『うげっ・・げほっ』
「苦しそーだね?」
『の・・呪って・・やる』
「・・・」
『あんたを、げほっげほっ・・・呪ってやる・から・・ 』
名無しは憎悪を込めて、和也に言い、そのまま絶命した。筋肉収縮で痙攣し、白目を向きながら死んだ彼女は、さっきまでとは変わっており、とても不気味だった。
「死ぬ時は、皆一緒だな。呪ってやるとか、殺してやるとか・・・」
和也は、懐からノートを取り出し筆を滑らせる。
その姿はまるで、物語を考える小説家のようだった。