未完成な赤井秀一×ジョディ



【ジョディ編】

 最初に彼を知ったのは、念願かなってFBIに入職した時だった。アジア系の顔立ちをした物凄いスナイパーがいると噂だったからだ。同期で入職したメンバーでシュウの射撃を見た者は皆揃って目を輝かせて「俺も将来はアカイのようになりたい!」と羨望の眼差しで彼を語った。友達のリンダなんかは、「超クールなの!瞳はセクシーだし、一度いからお相手してほしい!」なんて騒ぐ始末。私は残念ながら入職してからしばらくの間彼に会うことはなかったので、顔はともかくそんなに凄い人がいるなら是非一緒に仕事をしてみたいくらいにしか認識していなかった。
 そんなある日、射撃練習場に行くと、同期のウィリーが、興奮した様子で私に教えてくれたことがあった。

「ジョディ!さっきまでアカイがいたのにニアミスだったな!」
 
 普段は物静かなウィリーが随分とはしゃいでいるので、ニアミスしたということよりも彼のその様子に驚いたことを今でもよく覚えている。そして、入れ替えのため的の交換が行われていたのだが、彼が撃ち抜いた的を片付けるところを見て今でも忘れられないほどに驚愕した。

「ウィリー、彼は何発ここで撃ったの?」
「俺が知る限り7発は。」
「……素晴らしいわ。」

 撃ち抜かれたポイントはほぼ的の中心、跡もせいぜい2つ程しか目視できなかった。…さすがFBI、こんなにも凄い男がいるなら両親の仇を討つという悲願も達成できそうだ。やはりここに入職してよかった。そう思い、その日は15発程弾を撃つ練習をしたが、情けないことに焦点は定まっておらず、2発は的にも当たらなかった。





 彼に初めて会ったのは、射撃練習場でのニアミスから1週間経とうとした頃だった。会ったと言っても食堂で遠目に見かけただけだったが、同期が「ジョディ!あれがアカイだぜ!!格好いいだろ?」と、自慢げに教えてくれたのですぐに分かった。なんでアンタが自慢げなのよと同期に突っ込んだら、だって、我がFBIが誇る一流のスナイパーだぜ!自慢しなくてどうする!という良く分からない理論を言われたので、頭をはたいてさっさとランチの注文へ向かったのだった。
 第一印象は、ちょっと近寄り難そうな人、だ。同じテーブルについている人と談笑しているが、鋭い目はどこを見ているのか、何を考えているのか読み取れない、何とも言えない不気味さを感じたのだ。あの人が正確無比なスナイプをすると思うと、ゾッとするとすら思った。

 食堂でカルボナーラスパゲティを注文し、偶然にも彼の斜め後ろの席に座ることができた。これだけ近いと、聞こうとしなくてもそこの席の会話が聞こえてくるもので、低く、良く通る声が耳に入ってきた。見た目に反して、品のいいブリティッシュイングリッシュだったことが少し意外だった。
 彼らの会話は、少し前の強盗事件の犯人についてだった。犯行の手口や逃走ルートの確認、それにおけるFBIが後手をとった点、今後の改善点など、まるで講義を聞いているような気持ちにさせられたが、とても面白く、気付いた時には食べる手を止めて話に聞き入っていた。次第に話がその犯人の育った環境・家族について移り変わり、その延長で彼の家族の話になっていった。

「シュウはFBI、母親に反対されたんだろ?」
「ああ、最初はな。母さんと殴り合いまでして納得させたんだ。」
「うわっ…ヒッデェ!!お前と殴り合いとか、俺でさえ怖ぇよ!それを自分の母親にするとか!!」
「…俺の母さんはそんな可愛げのある奴じゃねぇんだよ。まったく、口うるさく鬱陶しいだけだ。」

 その日、私が彼に抱いていた尊敬はガラガラと音をたてて崩れていった。いくら腕のいいスナイパーでも、頭の切れる策略家でも、家族を大切にできない男に何かを守れるとは思わなかった。





 それから時は流れ、現場に出ていくつか経験も積んだ頃、ジェイムズの指揮のもとついに彼と同じチームになった。もうこの時点で私は彼のことが大嫌いだったが、これから一緒に働くメンバーだ。私情で作戦に支障があってはいけない。そう思い、とびっきりの笑顔でシュウに右手を差し出した。

「初めまして、ジョディスターリングよ。これから宜しく。」
「…ああ」

…無愛想な男!!リンダはこんな男のどこがいいのかしら!!!

 一緒に仕事をして分かったことがある、アカイはとにかく独断で動くことが多い。練りに練った作戦で、このメンバーで4時間近く会議だってした、それなのに、いざ作戦が始まると思った所にいない、計画にないタイミングでスナイプをする、犯人確保の時点でなぜか現場にいる(私が確保する予定だったのに!)。結局、当初計画していたより5時間も早く犯人が確保され、チームのメンバーも「シュウ!やっぱりお前すげぇよ!」と彼のファインプレーを褒め称える雰囲気になっていたのだが、どうしても私は納得できなかった。

「アカイ捜査官!私が犯人を確保する予定だったじゃないですか!」
「当初の作戦とは状況が違っただろう。接近戦になるし、明らかに女のお前より俺が動いた方が確実だった。」
「それでも、ではなぜそれを教えてくれなかったんですか!情報共有さえしてくれれば、私だって臨機応変に動けました!」
「確かにそうかも知れんが、俺に噛みつく暇があったら自分で気付く努力でもするんだな。あの時俺が敵を無効化していなかったら、確実にお前は今頃病院のベッドの上だろうさ。自分がスコープ越しに狙われているのも気付けないなんてな。」
「なんっ!」
「まあ、なんにせよ早く仕事が片付いたんだ。ひとまずはそれを喜び、ボーイフレンドとでもディナーに行ってきたらどうだ?」
「そんなものいないわ!…貴方と喋っていると、自分が無能だって言われている気持ちになる!」
「ジェイムズがこのメンバーに君を入れたんだ。同じ年に入職した女の中では飛びぬけて出世している方だろう。」
「一般論の話をしているんじゃないわ。貴方が私をどう思っているかを聞いているの!」
「…個人的には気の強い女は好きじゃないな。あと、ヒステリックな奴も、女の権利をやたらと主張する奴もな。」
「っ!」
「ああ、あとアカイ捜査官なんて堅苦しい呼び方はやめてくれ。俺のこと、尊敬もしてなければ嫌いなんだろう?呼び捨てで十分だよ。」

 最っ低!!!私が女の権利をいつ主張したっていうのよ、この男尊女卑の時代錯誤野郎が!!!!





 それから、何度かアカイとはチームを組むことがあった。相変わらず単独プレーは多かったが、私だって彼に負けないように周りに気を配るのだって忘れなかったし、自らの手で犯人を確保したことだってあった。メキメキと捜査官としての経験値を積んでいる実感もあったし、周りからの自分の評価も悪くない。ただ、アカイに限っては、最初に私が噛みついて以降特に何をに言ってくるわけでもなく、必要最低限の関わりしか持ってこないようにしているようだった。
 そして今回は3人の人質をとったカフェへの立てこもり事件、犯人は若い女という情報が入ってきていた。自分で言うのもなんだが、交渉術には自信がある。この前だって犯人の説得に成功したし、ましてや今度は同年代の女だ。私が交渉に出るのがベストだろう。しかし、

「まだ入ったばかりの女が出るより、ベテランのリリーに行かせよう。マスコミも騒ぎ出しているんだ。若い女に任せて失敗しました、じゃこっちが迷惑する。」

 上官のその一言で、私は後方部隊にまわされてしまった。悔しかったが、まだ自分の評価がそこまでだということだ。噛みつきたいのをぐっとこらえて、自分の待機場所へと足を進めた。





 以前俺に威勢よく噛みついてきたジョディが大人しく後方待機している姿をスコープ越しに眺める。俺ならあの場で自分に出させろと絶対に主張するが、大人しく引き下がったということは、そういうことだろう。散々俺にえらそうなことを言っていたわりに、やはり女だ。腰かけでやっているなら、結婚でもなんでもして、怪我をしないうちに早めに一線を退いた方がいい。
 今回はリリーとかいう古臭いババアが交渉にあたっているが、どうにも進捗が悪い。許可さえ出ればさっさと腕でもなんでも撃ち抜いて済ましてやるが、体裁ばっかり気にする無能がなかなか許可もださない。イライラして5本目の煙草に手が伸びると、隣にいるジャックが非難めいた視線を向けてくる。うるせぇ、これくらい許しやがれ。
 
 結果的に、事件は人質1人の負傷者を出して終結した。激昂した犯人の女が、人質の女の子の腕に向かって発砲し、それに焦った上官が突入の指示をやっと出したのだ。胸糞悪い事件だった。もっと早く解決できていたはずだ、女の子を怪我させることなく、怖い目にあわすことなく助けられたはずだ。事件の報告を済ませ、イライラしながら屋上に足を進める。誰もいないところで煙草でも吸って落ち着きたい気分だった。
 冬の寒い今日のような日に、屋上に足を運ぶものなどそういない。そう思って来たはいいが、屋上へ出る扉が半開きになっていた。誰かいるのか、そう思い覗きこむと、そこには今日の日中大人しく少し離れた場所から現場を見ていたジョディがいた。ただでさえ気分が悪いのに、こんな時まで噛みつかれたら溜まらない。そう思い足を返そうとすると、風に乗ってジョディの声が聞こえてきた。

「畜生…ちくしょう…私が出てたら、もっと…ちくしょう、」

 自分のデスクに戻った時には、煙草を吸いたいという気持ちはさっぱり無くなっていた。





 その件があってから、ジョディはどこか男勝りになっていった。男同士のくだらない下ネタにも乗って大口を開けて馬鹿笑いしていることもあるし、男も嫌がるような過酷な任務でも自ら受けるようになった。任務に積極的になったと上司からのウケも好評で、あちらこちらからジョディの話を聞くようにもなったが、どうも俺は違和感しかなかった。アイツは気付いていないだろうが、馬鹿みたいに下品に笑っている時は頬が一瞬ひきつっているし、3日間シャワーも浴びれない任務についたあとに、「お前マジで匂う!もう女捨ててんな!」と話しかけられては軽口で応対していたが、一瞬だけ悲しそうな目をしていたのだ。
 ある時食堂で見かけた時は、俺より1つ年上の男と喋っていた。

「お前もさっさと良い男でも作って使いこんでもらわねぇと蜘蛛の巣でも張っちまうぞ!どうだ?俺が相手してやろうか?」
「あはは、馬鹿なこと言わないでよ!私だって選ぶ権利くらいあるわ!」

 なんだよーとその男はちっとも残念そうにせず立ちあがってどこかへ向かって行ったが、最低な会話だと思った。軽口の応酬だということは分かる、アイツらはどちらも本気で喋ってはいないし、俺だって少し品の無いような会話を楽しむことだってある。それにしても、さっきのやり取りは下品だ。

「聞いてて不快な会話をこんなところですんな。あと、お前の笑顔最近気持ち悪いぞ、楽しくもねえなら笑うな。」

 思わず、こんなことをジョディに言ってしまうのも仕方がないと思う。





 ハァーーー!?急に近づいてきたと思ったら笑顔が気持ち悪いですって!それならコッチ見んな!!死ね!!!
 折角最近うまく立ち回っていたと思っていたのに、何故だか急に絡んできたアカイの一言のせいで気分は最悪だ。今日これからの会議ではまたアイツと一緒のチームでする仕事の話だ。ああ、もう行きたくない!

 最近の任務では、入職した時よりも格段に責任のあるポジションで使ってもらえるようになってきた。でも、まだまだ新人だからという理由で思った仕事はさせてもらえない。
今回も、後方支援からの突入という仕事を振り分けられてそのまま会議は終わろうとしていたのだが、

「おい、ジョディはもう少し前衛の…ここがいいだろう。」

 アカイがそう言って、私と先輩の配置が変更になった。…どういうつもりなのだろうか。会議が終わって皆が席を立つなか、私は彼を追いかける。

「ねぇ…ねぇ!」
「なんだ。」
「どうして私を庇うようなマネするの?」
「庇う?俺は俺が一番効率が良いと思った配置を提案しただけだ。出来る奴が後ろで大人しくしている必要もないだろう。」
「はぁ…。」

 結果として、その作戦は大成功をおさめ、私達のチームは上官直々にお褒めの言葉をいただいた。特に、作戦の立案者である赤井と、いい動きをしたジョディの働きは評価され、臨時の恩賞まででる始末だ。皆からも称賛の言葉を浴びせかけられる中、私はまた1人でさっさと帰ろうとしている彼の元へ走っていった。

「ありがとう。」
「礼を言われる筋合いはない。」





 その事件をきっかけに、目に見えて私の評価は上がっていった。責任ある仕事も任されて、期待に添えて結果だって出してみせた。それでも、鍛練を怠ることはしたくないので、一番苦手な銃撃訓練には少なくとも週に3回はいけるように時間をとっていた。
 その日も銃を構えて標的をねらうのだが、どうしても標準がぶれる。3発まではうまくヒットしても4発目からはイマイチだ。イヤープロテクターを外し、ふぅとため息をつく。どうして上手くいかないのだろう…。
 すると、同じ時間帯に練習所にいたアカイが目に入った。相変わらず完璧なスナイプで、仲間に称賛されている。アカイ程じゃなくても、私だって早く使い物になる程度には銃を扱えるようになりたい。そう思い、もう一度プロテクターをつけようとすると、ふと彼がコチラを見て、

「足の位置、半歩ずらせ。」

そう言って、私の方へ向って来た。まさかアドバイスをもらえるとは思わず一瞬とまどったが、とりあえず私は、彼に言われた通り足を半歩ずらし、もう一度銃を構えた。すると今度は、5発まで思った通りの位置に撃ちこむことができ、今までの中で最高の結果を残すことができたではないか。
 やった!そう思いお礼を言おうと的から目を離すと、なんと彼は扉を開けてもう外に出ようとしているところだった。

「ありがとう!!!!」

 急に大きな声で叫んだ私に何人もいぶかしげな顔を見せたが、アカイは振り返りもせず行ってしまった。聞こえただろうか…と不安げに銃の片づけをするジョディは、お礼の声を聞いた赤井がかすかに笑ったことには全く気付いていなかった。





 ある時、赤井は事件に関わった女性に証人保護プログラムを勧めるべく資料を作成していたら、偶然にも20年近く前の事件の資料を目にした。両親が殺され、残った女の子。証人保護プログラムを適応して…今はジョディスターリングと名乗っている、と。
 赤井にとって衝撃の内容だった。気概のある奴だとは思っていたが、まさかこんな過去を持つとは夢にも思っていなかったし、コイツの両親を殺した相手は、父親の失踪にも関係しているかもしれないなんて、とんでもない偶然だ。

 射撃場での一件のあと、ジョディは赤井に随分懐くようになっていた。呼び方もアカイからシュウに変わり、銃のことだけでなく、ちょっとした仕事のことも相談にくるようになったし、挨拶がてら少し話もするようになった。
 次の作戦でも同じチームだ。会議が終わり、現場に向かう車に乗り込もうとした時も、わざわざ俺のところまできて、

「今日の作戦、シュウが1発の銃弾を撃ち込む前に私が犯人確保しちゃうから出番がなくなると思うけど、恨まないでよ!」

と朗らかな笑顔とともに軽口を叩いていった。その笑顔からは、両親の死なんていう悲しみはまるで読み取れなかった。

 その日、作戦終了後に赤井はジョディを飲みに誘った。

「初めてじゃない?シュウがこんなお誘いをかけてくれるなんて。」
「そうだな。ちょっとお前を口説こうかと思って。」
「はぁ!?笑顔が気持ち悪いと言い捨てた女を口説こうなんて、随分趣味が悪いのね!」
「…いつの話をしているんだ…。」





 シュウとのディナーは楽しく、よく回る彼の頭から出てくる話題の数々も私の興味を引くものが多く面白かった。最初はシュウのこと大嫌いだったけれど、最近は少しずつ彼のコトが見えてきた。単独プレーは確かに多いが、その裏には必ず仲間や市民の為を思う姿勢が見える。1人でいるのが好きなようにみえるけど、少し口べたな所があるから自分から会話に入っていけないだけ。私みたいな生意気な女だって、ちゃんと評価してくれてしっかり認めてくれる人。
 シュウに惹かれていないと言ったらそれはもう嘘になる。同期のリンダには随分前に良い彼氏ができて、今はもう恋敵もいない。このまま彼に口説かれて、パートナーになるのはとても素敵な話かもしれない。
 ディナーからの帰り道、長い腕でぎゅうと抱きしめられる。顎に手を添えられ、彼の方に顔を向けると、色気のあるグリーンの瞳が目に入ってきた。ここまで来て何をされるか分からないほどネンネではない。目を閉じ、彼を受け入れる姿勢をとる。
 ゆっくりと彼の顔が近付いてきて、息遣いを肌で感じる距離になったとき、彼が一言。

「好きだ、ジョディ。君のすべてを知りたい。…君の本当の名を俺にだけ教えてくれないか。」

 その言葉を聞いて、頭がスッと冴えわたった。閉じていた目を思い切り開き、シュウの腕を跳ねのける。まさかそんなことをされると思っていなかったのだろう、間抜けな顔をしたシュウが目に入った。

「なに、まさか同情したの!?私の名前はジョディスターリングよ!その女以外がよければ、どうぞご自由に。」

  やっぱりあの男は最低だ!





 それ以降、ジョディは赤井を徹底的に避けた。イライラしているのが目に見えるようで、他の同僚から遠目に見られたり、ある馬鹿には「なんだよジョディ、生理か?」なんてデレカシーの欠片もない言葉をかけられたので、スラングたっぷりで「だまれ○○野郎。」と中指を突き上げながらお返ししておいた。

 そんな中、ジョディは自分をつける怪しい男の存在に気付いていた。仕事柄、誰に恨みをかってもおかしくはない。こっそり顔を確認したところ、自分の知っている男ではなかったが、目的が自分であることは明白だった。同僚に相談をして、大騒ぎになるのも面倒だ。見た感じは、もし何かあっても自分1人で制圧できそうなひょろっこい男。ただでさえアカイのことでイライラしているのに、こんな訳の分からない男にまでイライラさせられては堪らない。
 そうして、ジョディは少し早めに仕事が終わった日の帰り道、わざとその男をおびき寄せることにした。自分自身を囮にして、できるだけ人気の少ない、それでいて狭い路地が入り組んだ場所に入っていく。ここなら、何かあっても制圧しやすいし、逃げることも容易いだろう。男はまんまとジョディの罠に乗って、入り組んだ奥の道まで入ってくる。そろそろ頃合いか。日が暮れて視界が悪くなる前にカタをつけよう、そう思いジョディが振り返ろうとしたその時、ドォン!と銃撃が響いた。
 
しまった!いきなり撃ってくるとは!

 てっきり何か話しがあるから追いかけてきているのだろうと思っていたが、まさかいきなり殺しにかかってくるとは思っていなかった。完全に油断していた。相手は素人なのだろう、弾はかすりもしなかったが、咄嗟に隣の路地に身を隠し様子を伺う。
 男は興奮した様子で何かを叫んでいるが、聞き取ることはできない。銃声を聞いた誰かが通報していたら応援がくるだろうが、それまでに男が一般市民に手をださないとは限らない。自分がやるしかない。様子を伺い、男が一旦銃を下した瞬間、ジョディは男に飛びかかろう…として、どこからか現れた赤井が男を殴り飛ばす姿を目撃した。

「…は?」

 赤井の強烈な一撃で完全に意識を失った男を横目に、赤井がこちらに向かって走ってくる。息も切れている。この男がここまで必死になっている姿を初めてみた、なんて、赤井が怪我はないかと言いながら自分の全身をチェックするのを、どこか他人事のように見ていた。怪我がないことが確認し終わった赤井は、あの時のようにまたジョディをぎゅうっと抱きしめて、

「馬鹿野郎油断するな!ああ!もう!なんでもいいからお前を守る権利を俺によこせ!!ジョディスターリング!!」

と叫ぶではないか。
…なんだ、赤井秀一、可愛い所あるじゃないか…。

 そこから、ジョディと赤井の交際はスタートした。甘い関係には程遠く、仕事でも「あいつら本当に付き合ってるのか?」と言われるくらいに意見を言い合って喧嘩したこともあった。しかし、ジョディは赤井が実は辛いものが嫌いであることも知ったし、任務となれば何日でも寝なくても済むのに朝の寝起きが壮絶に悪いことも知ったのだ。





 そして、順調な交際をすすめてしばらくして。赤井の潜入捜査が決まった。

「本当は私が行きたかったのに…!!」
「仕方がないさ、ターゲットがジャパニーズの女だ。俺が適任だろう。」
「…失敗したら許さないわ、私の両親の仇なんだから。」
「もちろん、失敗する気などないさ。」
「でも、仕事とは言え他の女に近づくなんて、本当は面白くないわ。私が心の広いパートナーだったことにシュウは感謝すべきよ。この件に関しては前に話したホテルディナーで手を打つわ!」
「…そのことだがジョディ、お前とは終わりにしてくれ。」
「えっ、…なにも、私たちが別れなくても。」
「同時に2人の女を愛せるほど器用じゃないんだ。」

 ジョディは何も言えなかった、でも所詮本気じゃないんでしょ、ならいいじゃない。そう言いたかったが、何故か口が動かない。

「任務とは言え相手は一般人。真剣に向かい合ってやりたい。」

 そういう目があまりに本気だったから、

「ジョディ、頼むよ。お前が教えてくれたんだ。先入観なしで真っすぐ相手をみるってことを。」

 そんなことを言われて引き留められる女がいるなら見てみたい…。
 ジョディはため息をついた、それってつまり私は貴方にとって仕事より大事な女になれなかったってことでしょう?と言わなかったのは彼女の優しさだ。

「貴方、潜入捜査に向いてないんじゃない?」
「…ほっとけ。」
「いいわよ。任務が終わって帰ってきてから、私を捨てたこと後悔してもしらないから。」

 その数日後、赤井は日本へ飛んだ。ジョディは見送ることもしなかった。

2017年12月28日
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -