ぬかった女♀



 安室くんがバニーガールの店に行った。らしい。

 ボウヤから、どうやら彼がバーボンとして動き出したようだ、という連絡が入った時、その本題がなかなか頭に入ってこなかったのは添付されていた写真に気を取られたからだ。
 そこには、露出の多い衣装を着た可愛らしいウサギさんが沢山写っていた。事件があったということで雰囲気は固く、皆揃って青い顔をしていたが、普段はさぞかし華やかな場所なのだろう。
 長い耳と可愛い尻尾を揺らしながら歩くその姿は、客の目を楽しませているに違いない。

 さて、バニーガール。

 実は1度だけふざけてその衣装を着たことがある。大学生の時、なにかのパーティーで数人の女子でその服を着ようということになり袖を通してみたのだ。
 他の子が可愛らしく、セクシーにバニーを着こなす一方、私はまぁなんというか…みすぼらしいの一言に尽きた。
 ふと下を向くと、胸の辺りは衣装が余って、ほとんど膨らみの無いそこは頂が丸見えだった。なんの障害もなく見下ろせる両脚は、鍛え上げられて色気のイもない。ジェシカの柔らかそうなふにふにした肉が荒い目の網タイツからぽっこり出ていたのを、その隣で網目から飛び出る肉もない程に硬くたくましいそれを晒しながら見下ろしていたのをよく覚えている。
 結局あまりにも胸が見えすぎていると、それを着てパーティーに行くことはなかったが、アメリカサイズの服だったから体型に合わなかった。という言い訳は少しばかり厳しいその出来事は、女としてなかなか屈辱的であった。

 ふと、もう一度ボウヤから送られてきた写真を見ると、安室くんは真面目な顔で事件の捜査をしているようだった。
 事件が起こる前だとしても、彼がこの手の店で顔を赤くして狼狽える姿は想像できない(なんせ、あのベルモットと行動を共にすることが多いのだ。目は肥えているだろう。)が、うさぎさんに囲まれている彼を見るとモヤッと…ムカムカする。

 私がまだライとして潜入していた時のことを思い出す。怪我の手当ての為に脚を出していたり、夏場に暑くて腹が出ているような服を着ていると、彼は決まって顔を赤く染めて目を反らし「もっと恥じらいを持ってください」なんて言ってきてたのだ。
 その時は、ウブなやつだなぁくらいにしか思っていなかったが、その後、情報の為と言いながらいかがわしい店に平然と出入りする姿や、ほとんど裸みたいな服を着たベルモットの後ろを真面目な顔をして歩く姿を見て「おや?」と思っていたのだが、今回のこれでダメ押しだ。
 こんなに可愛らしくてセクシーな女の子に囲まれても平然としているこの男が、ライに対してだけあの態度だったのだ。

 それはつまり、「そんな見苦しいもん見せるな」という意味だったのだろう。

 落ち込んだ。
 別に彼に女として見て欲しいとか、女扱いしろとかそういう意味ではないし、普段から女らしい振る舞いをしていない私が悪い(?)ことも分かっているが、女らしく扱われないのと、見苦しいと思われているのは別だろう。

 ふと、もう一度自分の身体を見下ろすと、相変わらずなんの障害もなく爪先を見ることができた。スマホを置いて、なんとなく両手で胸を揉んでみるが…揉んで、揉ん…撫でている感覚だ。揉みようにも肉がない。

「…」

 落ち込んだ。
 だが、今はこんなことをしている場合じゃない。ボウヤに返信しなくては。
 事件のことはボウヤと彼がいるから解決は時間の問題だとして、バーボンに対しては私が動かないわけにはいかないだろう。バーボンの動きを予想して、いざというときの為に手入れしてある銃を出してきて弾を確認する。
 そして、沖矢の仮面を取り去り、もとの赤井秀一に戻る。一応ジェイムズにも連絡をしておこうか。
 メイクを落とし、服を脱ぎ、動きやすいいつもの服に着替えて…着替、きがえ…。

「…」

 ズボンのチャックが締まらない。
 もう一度脚の付け根までしっかりとズボンを引き上げて、しっかりとウエストに合わせてズボンをはきなおすが、あと少しがどうしても上がらない。心なしか、若干ズボンの上に肉が…乗って、いるよう、な??

 なんということだ、胸にはこれっぽっちも肉がないというのに、余計なところについたとでもいうのか。
 だが、まったく検討がつかないかと言われたら心当たりはある。最近は外に出ることなく、家にこもって隣家の盗聴ばかりしていた。それどころか、最近ではケーキ作りなんてものも覚えてしまい、今はボウヤの好きなレモンパイを練習中だ。
 一度ケーキを作ると、一人では食べきれない量を焼くことになる。隣家にお裾分けに行こうとも、ケーキなんていう甘いものを持っていくと「博士にこんなもの与えないで」と隣の少女から怒られるのは必須(と言うか怒られた)。子供達も毎日遊びに来るわけでもなく、結局は一人で消化することが多い。
 作るのは楽しいのだが、なんにせよ甘いものはそれほど大好きというわけでもないのだが、…この肉の原因はあれに違いない。

「…」

 なんということだ。好きでもないものを食べてこんな肉がつくとは。好物の酒をたらふく飲んだから腹が出たと言われた方がまだ納得ができるというのに、…なんということだ。
 落ち込んだ。

 チャックはなんとか閉めることができたが、その上にのった肉を何とも言えない気持ちでながめていると、スマホが着信を告げた。
 どうやら事件が解決して今から店を出るようだ。こうはしてられない、私も急いで用意をしなければ。
 上からシャツを羽織りズボンの中に入れるが、腰の辺りで少したるませて肉をごまかして急いで用意をする。上着を羽織って先ほど用意をした銃をしっかりと入れ、いつもの黒いニット帽をかぶる。
 よし。あとは隣家の見張りをする別スタッフが来たら私は出掛けるだけだ。



 この時の赤井はまだ知らない。交代で来た捜査官に「赤井さんちょっとふっくらしましたね。」と言われ血走った目でにらみ返すことになること、そして、バーボンとの再開の一言目が「ぬかったな」で、一瞬腹の肉がばれたのかと思いひやっとすることになる未来を…。

2018.4.15
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