花宮真
嘘だとわかってる
「愛してる。」
もう何度目になるだろう。君からその言葉を聞くのは。
『私も。』
もう何度目になるだろう。君にこの言葉を返すのは。
私が彼に魅了されたのは二年前。まだ高校に入ったばかりで、高校生活に期待を寄せていたあの頃。彼を見たのは教室だった。
要するに、一目惚れ。
私の片想いから始まって、二年に進級する直前につき合うことになった。
嬉しくて、幸せで。夢のようだと思ったら思わず泣いてしまったのを覚えている。
いつだろう。
君の微笑に陰が差し始めたのは。
その事実に、私が気づいてしまったのは、いつだろう。
「愛してる。」
ほらまた君は私に囁く。きっと君にとっては思ってもない言葉を。
それでも私もまた返すんだ。
『私も。』
好きなのは、私だけ。
彼の部屋。私と花宮くん以外には誰もいない。
彼は私に優しいキスをする。だから私もそれに応える。彼は唇に感情を込めない。
ただ、温かいぬくもりが触れると抵抗できなくなる。する気もないけれど。
きっと私たちの関係は、端から見たら恋人同士だ。でも、それは偽りで。
彼を想っているのは私だけ。本当に好きなのは私だけ。
一方通行の想いは、寄り道をせずに真っ直ぐ彼に進む。向かい合わない関係にはもう慣れた。
ふいに、切なくなる。憤ろしくなる。切なさは、彼に。憤りは、私に向かう。
彼の気持ちがもう私に向かっていなくても、求め続けてしまう自分に。
「あ、名前ー。」
『……原くん。』
「あれ、また痩せたんじゃねーの?」
『そう、かな…。』
曖昧に笑えば、彼は絶対そうだと頷いた。変化に気づいてくれるのは純粋に嬉しいけれど、彼はあまり気づいてほしくないことまで気づく。
「痩せるのってストレスとかも原因らしいからあんま溜め込まねぇようにな?」
『うん、ありがとう。』
膨らませていたガムをぱちんと割って彼は教室に入っていった。
優しい。優しいと思う、彼は。
元々優しいけれど、彼が隠そうとする気持ちにいつだったか私が気づいてしまって、そのときからまた一段と気にかけてくれる、大切な存在。
でも、だけど、それは花宮くんに向けるものとは別物で。だから云われたときに『ごめん』と返すことしかできなかった。
『…弱いなぁ……。』
思い出すと更に情けなくなって視界が滲む。それを堪えて廊下を進んだ。
『花宮くんはさ、私のこと、好き?』
「…好きに決まってる。」
………嘘。いっそそう言ってくれれば良いのに。
『だよね…。』
「…名前?」
私の笑いが乾いていたことに気づいたのか、彼は眉を寄せて怪訝そうに私を見る。強い力で引き寄せられて、気づいたときには唇は塞がれていた。
「…愛してる。」
『…私も。』
ねぇ、口だけの言葉はいらないから。その代わりにもう、君の本音で伝えてよ。
嘘だとわかってる
(それでもわたしはあなたがすきで、)
(ずっと、てばなせないでいる。)
原くんは友情出演です。
ありがとうございました。
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