ラテン語お題@
2011/06/06 00:04


1.Ab ovo usque ad mala.(燐勝)

燐は動けなかった。勝呂が泣いている。ただそれだけで、燐の身体はまるで金縛りにでもあったかように自由を失ってしまった。どうしたんだと震える肩に伸ばしかけた手だけが不自然な形で宙に浮いたまま。力なく俯く勝呂へは決して、届かない。勝呂が泣いている。(俺のせいだ。俺が泣かせた。勝呂が泣いてんのは俺のせいだ。俺の。俺のために。俺だけの、)どれだけ時計の針が進もうと、燐は動かない。よって、勝呂の涙は止まらない。

(さいしょから、さいごまで。)


2.Acta est fabula, plaudite!(メフィ藤)

その墓標は異端だった。石碑にはあらゆる文字も刻まれず、冷たい土に眠る灰はない。それでも僅かに彼の人となりを知る誰かが確かな慰みで手向けた小さな花束だけが、雨に打たれ花弁を散らしながらも墓としての体裁を繕っていた。しばらく無言でその場に立ち尽くしていたメフィストは、徐に傘を閉じると忌々しげに舌打ちをひとつ零し、つま先で細やかな善意を蹴飛ばす。そして、こんな時に涙のひとつもだせないのだから、やはり自分は生粋の悪魔なのだとわらう。
(芝居は終わりだ。喝采を。)


3.Ad nocendum potentes sumus.(八百達)

死ぬな。諦めんな、と。顔をくしゃくしゃにして子供のように泣きじゃくる達磨から、八百造は目を背けない。むしろ、霞みゆく視界の中で、この瞬間を網膜に焼き付けようと両手で彼の頬を優しく包み、虚ろな視線を絡ませ、名を呼ぶ。「たつま」さまを付けずに名前を呼ぶなんてことはあの日以来だと思わず笑う。何かを察したのか、「言うな、八百造、言ったらあかん、絶対」叫ぶように取り乱す達磨の唇に自分のを押し当てる。
「ずっと、あなたを愛してました」

(わたしたちは君を傷つける術を手にしている。)


4.Nil desperandum!(志摩勝)

身を守るように布団をがっちりと身体に巻きつけて寝ている勝呂の傍に、廉造はいた。気を抜けば閉じてしまいそうな目を強くこすりながら、勝呂が魘されれば落ち着くようにと優しく背中を擦り、深く眉間に刻まれた皺を指で解し、僅かな音で身を捩る勝呂の視界を手で覆い瞼を下ろさせる。しま?と。舌足らずな声で呼ばれて、廉造は勝呂の小さな手をぎゅうと握る。
「なんや、夢の中にもお前はおるんか」
「当たり前やないですか、廉造は坊がおるところならどこだっておりますよ」

(絶望なんてしなくていいよ。)



お題提供:99.9%さま
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