メモログ 勝呂A
2011/11/02 00:14

アマイモンと勝呂。

ついておいでよこの提灯に
けして(消して)苦労(暗う)はさせぬから


短冊を書こうと言い出したのは誰だったか。
きっかけはしえみだったかもしれないが、燐がそれに乗っかって、最終的に(どこから聞いたのか)理事長が面白そうだと後を押し、あれよあれよという間に小汚い教室の一角に大きな竹が運ばれ、手元には一枚の折り紙が配られた。(べつに、こんなん書いてもなあ)部屋へ戻った勝呂は教科書や参考書、ノートを一旦机の隅に押しのけると、その真ん中に黒のペンと短冊型に切った長方形の折り紙を置く。どないしよ。勝呂の眉間の皺が深くなった。こうなることを見据えたように、各自部屋へと別れる寸前、志摩がこっそり気楽に書けばええんですよと耳打ちしてきたが(お前はもうちょい真面目に考ええと返せば、坊は真面目すぎるんやと志摩は呆れたようだった)たかだか願い事だとわかっていても、勝呂の手は動かない。書くことがないわけじゃない、ただ、(願ったって、)「すぐろ」その声に、ぐっとこみ上げるため息を飲み込んで、なんやと振り向く。どうやってはいってきたのか、いつからいたのか、どうしているのか。ぐるぐると疑問が浮かぶが、聞いても仕方ないと半ば諦めた勝呂のすぐ後ろで、アマイモンが仄暗い目でじっと勝呂を見つめている。細い指が卓上を指す。「まだ書いてないんですか」それ。「うっさい、考え中や」邪魔すんな。真剣な勝呂の表情にアマイモンははあ、と気の抜けた返事を返すと、徐に背に乗りかかり、腕を伸ばしてぺらぺらと何も書かれていない紙を興味深げに弄る。なんや、お前も書きたいんか。いいえ。


「ボクは願うよりも叶える立場ですから」

もしもボクに願うのならなんだって叶えてあげますよ。
全てを知っている悪魔は優しく微笑んだ。




アマすぐA


暗記ノートを睨む勝呂の目がうとうとと微睡む頃合いをまるで見計らったように、床一面へ広げたお菓子を無心に貪っていたアマイモンが、突然、帰りますと立ち上がった。その声に、半ばぼんやりしていた勝呂の思考は現実に戻る。(帰る、て)お邪魔しますも、こんばんはもなく気付いたら部屋にいたと言うのに、帰り際には声をかけるその基準が、勝呂にはわからない。だから?と制止する勝呂に、アマイモンはもう一度、今度は声を若干張り上げ、帰ります、再度勝呂の目を見ながら言う。「…帰ればええやん」ドアか窓か、それともパッと消えるのか、この際どうでもいい。帰るならはやく帰ってくれ。そう言わんばかりに適当な声かけだった。勝呂自身そう思ったのだから、アマイモンはどう受け止めたか。無言で距離を詰めてくるアマイモンに、勝呂は怒らせたかと身構える。そして。

「奥村には、また明日と言っていたのに」

僕には言わない。
勝呂が見た悪魔の目には、ただ純粋な寂しさだけがあった。



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