都々逸お題@
2011/07/11 00:37

1.三千世界の鴉を殺し ぬしと朝寝がしてみたい(メフィ藤)


お前も書けよ。手持無沙汰だということを微塵も隠さず、退屈そうに自分を待つ(正確には藤本の報告書だが)メフィストを見かねて(というか鬱陶しがって)昼間に燐や雪男たちと作った際に余った短冊を押し付ければ、メフィストは最初こそ悪魔が願い事なんてと苦笑を浮かべていたが、そのあとは案外と素直に受け取ると、特に考えるそぶりも見せず、まるで決めていたように流れるような動作で文字を書き込む。なになにと覗き込めば、別に隠す気も無いのかメフィストが見えやすい位置に身体を避ける。内容を読んで、藤本は思わず笑った。メフィストは気分を害した様子も無く、澄ました顔でわざわざ浮かぶと、どの短冊や飾りよりも上、笹の先端部分にちょんとこよりを結んだので、藤本は可愛い奴だととうとう腹を抱えて笑い転げた。


2.逢うたその日の心になって 逢わぬその日も暮らしたい(八百達/昔話)


会いたい。浮かんだその思いの、あまりの女々しさに八百造は徐に手桶を掴むと、吐く息が白く凍る世界で一度とならず二度三度と頭から水を被る。がちがちと歯が鳴って、隣りで顔を拭く蟒が怪訝そうな視線を寄こしたが、何も言わずにその場を立ち去る。こういう時の幼馴染は、嫌になるほど理解が良い。
会いたい。無心で歩いていたが、ふと気を許すとまた浮かんでくる。会いたい。会いたいと、何度も、何度も。
(だいたい、会いたいってなんや。さっき会ったばっかりやないか。あほか)
おはようと言葉を交わし、少々会話もした。あと一時間もしないうちにまた顔を合わせるだろうし、そうすれば夜が更けるまで行動を共にする。それなのに。八百造は少々乱暴に自室の扉を開ける。そして扉も閉めず簡単に身支度を整えると達磨の部屋へと足を急ぐ。普段の時間より三十分も早い。けれど、八百造は待てなかった。

3.苦労する身は何いとわねど 苦労し甲斐のあるように(金勝/過去)


「そう言えば金造、今試験週間中やないんか」
「はあ、まあそうですけど」
「勉強はええの」
げ。言葉に詰まり、そっと視線を宙に投げ出した金造に、まさかと刑事のごとく感を閃かせ事情を察した勝呂の視線は途端に厳しくなる。さっきまで鈴のなるように可愛らしく名前を呼んでくれていたが、今はまるで地を這うような低音となってしまい、金造は泣きたくなった。
金造はそれほど勉学が好きではない。末弟ほど露骨に嫌って避けているわけではないが、それでも試験勉強なんぞ二、三日前からすれば十分だと思っているし、宿題は写すものだと決めている。真面目で勤勉な勝呂には、教科書を開くなり三分で寝てしまう末弟と五十歩百歩だとばっさり切られてしまったが、それで今まで赤点を取ったことも無ければ、成績に関してもそこそこの順位を維持できているため、勝呂の言うことはもっともだとわかっていてもそのスタイルが今後変わることはないだろうと金造は思う。勉学は好きではないが、結局のところ要領は悪くない、そうして空いた時間をバンドや寺の用事や勝呂との逢瀬で費やす方がよっぽど良い。そう言えば、勝呂は心底呆れたような顔で金造を見た。
「あほ」
「そりゃ、坊に比べればアホですけど」
「そういう意味やないわ」
ぐ、と勝呂の眉間に皺がよる。急降下する機嫌を肌で感じながらも、金造としてはいかんせんどうする予定もないので、安易に言葉は紡げない。けれども、勝呂の笑顔が一等好きだと公言して憚らない金造としては、せっかくこうして勝呂といるのにその笑顔が見れないのはなんとも悲しく、やりきれない。
「できるのにやらんのはおかしいわ」
正論である。ぐうの音もでないと落ち込んでいると、勝呂はちょっとだけその表情を緩め、内緒話をするように金造の耳元へ唇を寄せる。
「がんばったら、ご褒美やるから」



(天使やと思ってたら小悪魔やった)

ぐったりと卓上でへばる金造に、勝呂は無邪気に笑いかけた。



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