分かりたくもない

・若シャンバギ




シャンクスって野郎はおれの話をまともに聞かない。息も切々に言ってやっても見事にスルーだ。そのクセ自分が話した内容を聞いてないと、まるで罪だとばかりに責め立てる。終いには“バギーの耳はオレの声だけ聞き取れれば充分だろ?”などと抜かして。子供染みた独占欲。いや、子供ってことは間違ってないだが、それでも海賊の一員である以上、もう少し大人びていてもいいはずだ。事実おれは世間のガキよりかは大人だと思ってる。ともかくアイツになんとかしておれの言うことを理解させる。あわよくば言うことを聞かせたい。そう決めたんだ。




「おはよう派手馬鹿シャンクス。」
「んー?おはようバギー。朝からご挨拶なヤツだな。」

そうだ、この飄々とした態度も問題だ。この性格に何回も悩まされてるんだ。半分はまだ眠りのさなかにあるシャンクスを完全に起こすために、ハンモックをグラグラと揺らす。不満げに眉間に皺を寄せると、こちらを鋭く睨むシャンクス。朝にはどうしても弱いコイツのことだから毎回起こしてやっていると言うのに、どうしてこんな視線を受けねばならないのか。

「起きろっての。今日は早朝の見張り番だろーが。」
「バギーやっといてくれよー。」
「何でだよ!!つかお前を起こすためだけに起きてやってんだぞ!!」
「そうだな、バギーも一緒にやってくれれば起きれるな。」
「当番じゃねえっつの!!一人でやれ、一人で!!」
「だよな、バギーも一緒にやりてえよな。オッケー、眼え覚めた。」
「人の話を聞けぇぇぇ!!!!」

ツッコミがてら手刀を頭に振り下ろすが、当たる前に抱き締められた。

「ななな…何してんだぁぁぁ!!!!」

離れようともがくが接着剤でもついているかのようにひっついて離れない。シャンクスは気だるそうにバギーを見る。

「何って、おはようのハグ。」
「毎度お馴染みみたいに言ってんじゃねえよ!!離れろコラッ!!」

執拗に頭を叩き続けると、それに懲りたのか簡単に離れた。わざとらしく身体をパタパタとはたくと、シャンクスは怪訝そうに文句を漏らした。

「いいじゃねえかよ、長い付き合いなんだし。抱きつくのだって慣れてるだろう?」
「慣れようが慣れまいが迷惑なんだよ!何回も言ってんだろ!」

むっと頬を膨らませるシャンクス。対しバギーは犬を追い払うようにシッシと手を振った。

「お前は人の話を聞くところから始めろ。とにかく一人で行け、おれは寝る。」
「んー、やだ。」
「だからっ…!」

バギーの反論の前に手を突き出し、それを制す。にっこりと笑うと

「交換条件ってのはどうだ?」

と切り出した。

「……は?」
「今日一日お前に抱きつかないから、一緒に見張りやってくれ。」
「…本当だろうな。」

毎日のように抱き締められ、迷惑しているバギーとしては、悪い条件ではなかった。品定めするようにシャンクスをみるが、いつもと変わらないバギーの心を逆撫でする屈託のない笑顔。渋々バギーは条件を飲むことにした。

「決まりだな、早く行こうぜ。」
「誰のせいで遅れたと思って……なんだよこの手は。」

手元を見ればしっかりと繋がれた左手。シャンクスを見ても当たり前だとばかりに堂々としている。

「抱きつかないかわりだよ。分かんねぇの?」
「誰が分かるかぁっ!!!!」

ほどこうと腕を振るが、握られた手は微動だにしておらず。まるで初めからこの形だったかのように、自然だった。

「さ、行こうぜ。」

嬉しそうに綻ぶと、バギーの手を引きながら歩きだす。気付けばシャンクスのペースに乗せられていて、言うことを聞かせるはずが聞く側に回っている。バギーは声にならない叫びを上げながらも、なす術なくその手に引かれ歩くのだった。




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