用はない(愛はある)

キシリと床が小さく窪む音が出た。でも大丈夫。アイツには分からない。

再び歩を進める。キシリ、キシリ。大丈夫、構わない。だってアイツは笑えるくらい眠り痩けてる。

机を見れば大きく広げられた地図とオンボロの紙切れ。バギーにとってはボロボロと崩れている方が大切だろう。バギー曰く宝の地図なのだから。下手くそに引かれた線は、不得意ながらも進路を決めるためにバギーが足掻いた印。

「本当に…可愛いヤツだな。」

そう呟けば机に突っ伏していた肩が動き、小さくうめいた後、また規則正しい寝息が聴こえる。念のために背後を確認する。何度目かとは言えあくまで不法侵入者。他のヤツに見つかれば騒ぎくらい起きるだろう。それにそんなことで幸せそうに眠るバギーを起こしたくはなかった。

そっとしゃがみ、寝息を立てるバギーの顔を覗き込む。蒼い髪がハラリと落ちた。このまま何時間見ていても飽きないだろう。だが時折まるで死んでいるかのようにも見え、そこに在ることを確かめるように頬に触れる。くすぐったそうに笑うバギーに、顔に血が上ってくるのが分かった。

「…バギー。」

呼びかけに答えはない。その反応に残念そうな表情を浮かべる。寝ているのだから仕方ないのだが、少しの期待を持ってもいいはずだ。また小さく呼びかけるが、バギーは深い眠りの奥底から出てこない。仕方なく額にキスを落とすと、音も立てず部屋を後にした。




気配を感じてバギーはうっすらと瞼を開けた。飛び込んできたのは唇。何度も目にしてきた唇だった。それが己が額に落ち、ちゅっと音を立て、ゆっくりと離れた。

シャンクスが部屋を出たのを感じ、勢いよく跳ね起きる。いっぺんに顔が赤く染まり、また机に倒れた。

「何なんだ…あの野郎…。」

と呟いた後。自分の寝顔を見つめられていたことを思い、バギーは更に朱を深めたのだった。




title:小春




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