お前を貫く理由

空は高く嬉々するかのように青空を誇っていて。その中で赤い髪をなびかせる男が一人。場所は春島、桜はこれから本番だとばかりに大輪の花を揺らしている。

「バギーと一緒だったらもっと…」

ため息と共に漏れでる言葉は愛しき恋人への想いの欠片ばかり。心ここにあらずとはよく言ったもので、今のシャンクスにはぴったりだった。そんなシャンクスのとなりに、島一番の美女と評判の女性が座った。

「向こうで一緒に飲まないの?」
「気分じゃなくてな。悪い。」

桜の木々が並ぶ中で赤髪海賊団クルー達は花見(実際は只の宴会だが)に勤しんでいる。ただ一人、船長のシャンクスだけが抜け出していた。

「考えごとかしら?良かったら話聞くわよ。」

人当たりのよさそうな笑顔で彼女は促した。

「…おれにはあの地平線の向こうに、ただ一人愛してるヤツがいるんだ。」
「他の島に住んでるってこと?」
「いや、同じ海賊なんだ。」

自嘲気味に笑って、また視線を海の向こうへ向ける。水平線の向こう、遥か海原でアイツは財宝探しに明け暮れているのだろうか。その姿は簡単に想像でき、シャンクスの口角を上げさせるには充分だった。

「聞いたら悪いかもしれないけど、アナタの恋人って…」
「予想はついてるだろけど男だ。まあ向こうは恋人だなんて思ってないかも知れねぇが…。」

一瞬固まりはしたものの、女性は続けて、と呟く。

「何年経っても変わらないヤツでさ、いつも尖ってばっかりで。でも不意をつかれるとすぐにボロがでちまう。そこも可愛いんだがな。」

クスクスとつい思い出し笑いがでる。

「女に興味を持ったことはないのアナタ。」
「無くはないが、誰よりもバギーに惹かれたんだよな。不思議と。」
「なら私が手を出す暇は無さそうね。」
「悪いな。」

カラカラとシャンクスは笑う。女性は“でも”と言い、ゆっくり耳元に顔を近づける。色気を帯びた声で囁く。

「そのバギーって子に飽きたら私のところに来てね。」

そう言って、お尻についた土を払い女性は立ち上がった。

「悪いがそれは一生ないと思うな。」

おれにはバギーだけだ。と笑顔で言うと、彼女も小さく笑った。

「ホントに妬けちゃうわね。」

手をひらりと返し、桜吹雪の中に帰っていった。それを見送るとシャンクスはまた視線を海へ。

「次逢うときに言ってやらなきゃな。」

お前だけを選んだと。これからもお前だけだと。手土産もどうだろうか、きっと喜ぶだろうな。顔を綻ばすこと思い、ついつい笑みが零れる。その表情に、一喜一憂に、惹かれてる。




title:小春




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