気づいたら川の字になって寝ていた。他の二人は眠っているようだ。そっと体を起こして壁の高いところにかかる時計に目をやれば、午前三時だった。五時間寝ていた。二人を起こそうか考えたがやめた。私たちは、寝る前にけんかをしていたのだ。私はわるくない。きっかけをつくったヒロトがわるい。

急に尿意をもよおして立ち上がった。三階にはトイレは無いから、二階に行ってしなければならない。夜に怖いことを考えるのは三人できめた禁止事項だ。だけど、ごとりと下で音がして、私はその禁止事項を破ってしまった。怖い。下にだれかいる。ついこのあいだ三人で見た「じゅおん」を思い出してますます気は遠ざかった。

「…晴矢、晴矢起きろ」

肩をゆさぶり意識をこちらに戻そうとするが、晴矢は寝起きがわるいうえに朝の血圧がひくい。起こしたところで一緒に行ってくれるかどうか賭ければ、驚くほど賭け金の少ない自分に気づく。あきらめるのが吉のようだ。

「ヒロト、ヒロト」

ヒロトはごもごも言いながら、「何…」と目をこすり起きてくれた。ヒロトのパジャマの袖を引っ張りドアに耳をこすりつけるよう言うと、寝ぼけまなこで私を見た。いいから、とドアに押しつけてやる。瞬時にして、ヒロトの目が丸く開いた。

「晴矢、晴矢起きろ」

二人で彼を起こすと晴矢は起きた。二人で晴矢の体をささえながらドアまでいって顔を押しつけてやると、晴矢はヒロトとおなじ反応をした。

「なんだよ…この音」
「今何時だっけ?」
「三時だ」

ヒロトが声をひそめてしゃべりだした。丑三つ時っていうのは、一般的に二時から三時とされているけど、本当は三時から四時なんだって――。また音がした。私はトイレ、と呟いて二人の服を掴んだ。「え?」二人の声がきれいに重なる。

「当たり前だ。何のために起こしたと思ってる」
「やだオレ寝る!」
「オレも寝たいんだけど」
「だめだ」

分かったお前怖いんだろ、とからかった晴矢をにらみ、「お前は一人でいけるのか」と言えばヒロトが私をなだめた。けんかになりそうだと察したのだ。大体ヒロトがけんかの原因をつくるのに、なだめるのはいつもヒロトだ。

「…晴矢。オレたちも行こうか」
「はぁ!?何で」
「じゃあオレは風介と行くから、晴矢はここに一人でいてね?」

有無を言わせない雰囲気のヒロトに晴矢は言葉を飲み込んだ。やがて晴矢は小さな声で「……分かったよ」とこたえるあたり、晴矢も私とヒロトと同じ、子供なんだなあと感じる。

ドアノブをゆっくり回し、音を立てずに廊下に出た。先頭を行くのは、二人についてきてもらう私、真ん中にヒロト、そして最後に晴矢だ。下の音は、今静まっている。「おい風介、どうだ?」晴矢が問いかける、「だいじょうぶだ、音はしない」「でも油断はできないよ」三人そろって真剣だ。「なぁ、もし出会っちゃったらどうする」「とにかく逃げる」「どこに?」「三階にだ。三階にいけば武器がある。それで自分の身をまもるんだ」「風介のが一番かっこいいよね」「オレのもかっこいいぞ!」「ヒロトは、なんだっけ?」「盾だよ」「うわ、よえー」

がたん。音はさっきより近くで聞こえた。三人で石のように固まる。体はすっかりかちこちだ。音はすり足でこちらへ向かってくる、気がした気であってほしい。尿意を忘れ恐怖で心がいっぱいな私にくわえ、ヒロトと晴矢も後ろにいた。逃げることなんてできやしなかった。

階段に何か現れて、私のあたまにその姿をくっきりと映し出した。ヒロトと晴矢が息をのんだのがわかる、そしてやっと、叫んだ。

「ぎゃああああー!!」

その後、正体がねえさんだったのには別の意味で恐怖したが、私たちは腰を抜かしてそこで三人抱き合ってわんわん泣いた。ねえさんが私たち三人を見て、「仲直りしたの?」ときいてきても何もこたえられなかった。

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