噂で聞いたのは正統派が好きだということのみであった。彼女は涼やかな瞳でいつもどこかを見逃していた。さながら乙女のようだった。(俺からすると、彼女は乙女には程遠い女の子であると思うのだが)
彼女がその体に攻撃を始めたのは浮き世桜がちょうど葉桜になりかける頃だった。いつも貪欲な顔をして何かを避けていた。何を避けていたのか、今もよくは分かっていないけれども、あの時彼女は自分を守ることで手一杯だったに違いないことは確かである。薄暗い部屋で見た彼女の素肌には、俺の覚えのない傷ばかりだったのだ。

「…これ、どこでつけたの」

撫でる、「さわらないで」すぐに冷たい声が返ってきた。元々冷徹な瞳がさらに温度を下げたように、綺麗な網膜は瞼にほぼ覆い尽くされてしまった。なぜなんだ。どうしていつからこんな対応をされるようになったのか。誰か知っていたら叫んで俺の鼓膜を破って教えて欲しいものである。破ってくれよ。もう彼女と談話出来ないのならこんな飾りもういらない。






冷徹と残酷はいつだってお互い寄り添っている。ファストフード店でセットになって出て来そうな。或いは塩と胡椒、人の視線に洋服。離れず一つに重なって混ぜ合わされている。どちらかを取り除くことは不可能だし、また分離させるも然り。彼女はその混ぜ合った俺の嫌いなものを何枚も重ね着して肌の下に隠していた。

「わたし、じぶんで切ってるのよ」

何を目的としているのか彼女にも分からない風であった。切るとねえ、紅い血がたあくさん出て、それでわたしの心臓がぴったり止まるのよ。要するに怖いんだろ。彼女は俺にヘルプを求めていることに今更気が付いた。今の自分が何処の何か、誰かに教えてもらいたくてずっとそんなことしているのだ。

彼女は今、俺との対話を望んでいる。くだらない意地は捨てて、もう浮かんでこないように蓋をしよう。結局、彼女も俺も馬鹿で愚かな人間であった。


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