ガツン、と大きく殴られて、つけられたのはこれまた大きな仮面。大きすぎて私にははまらないと主張したけど、不思議とぴったりだったのでした。
それから私はこれを外さないよう心がけました。お風呂の時と朝の洗顔の時は、誰もいないのを確認してこっそり外しましたけど。それでも隅々まで洗わないで顔の中心をすこうしだけ洗ってまたすぐ付け直しました。そうしないと仮面が縮んでしまうのです。確かなことは知らないのですが、その行動が必要だと思いまして。






「何で仮面外さねえの?」こんなことを言われた日には怒りで身がいっぱいになります。仮面ではない。なんて嘘を吐いてやりたくなって仮面の下でじっと唇を噛むのです。もう私は仮面を自分の一つの顔であると思い始めていました。そう思って日々を生きていた方が楽なので。流されているようで流されていない。楽しい時も笑ってる時も、この仮面をつけていたら表情が見えないですけど、でもこのままでいい。さっきも言った通り、楽なんです。だから仮面外さないのは何故だ、と問われても、ただ楽だからと答える方が楽だし、楽な方法を選択するのは悪いことではありません。だからそう答えたのに相手は不機嫌でありました。

「楽だと仮面すんのかよ」

意味が分からない。私の素直な気持ちを言ったまでだ。何がそんなに彼の気に触れたのでしょう。仮面を付けているメリットとしては、こういう場合に感情が相手に伝わらないこと。仮面って便利なんです。たまに相手を怒らせてしまうけれど。今はその“たまに”の状況。彼は仮面をする私に腹を立てているみたいです。
彼は私の仮面を何度も外そうとしたくせ者。私の許可なしにそういうことをされると困ります。非常に。何度も言うのに、ちっとも聞き入れません。彼は問題児。仮面のデメリットは一つ、泣いている時に誰も気づいてくれないところです。彼は私の怒りの感情を読み取ってはくれません。自分の言いたいことだけ言って私が何も言わず(言えず)黙っていると「何か言え」と八つ当たりをしてきます。私はそれが嫌で嫌でたまらない。彼も、よく人の話も聞かないで好き勝手言うものだわ。その神経は一体どこから彼の脳へと繋がっているのでしょうか。

「お前は嫌じゃねえの?」

嫌?

「仮面の上からの人間関係なんて、信じられる方がすごいぜ」

それとも、はなから信じてない?私の思考は止まりました。そんなこと、考えたこともなかった。人間関係なんて、上辺で上手く渡り歩いていけばそれでいいものだと。「そうなると、俺との関係も遊び感覚だったのか」諦め口調でそれを言いますか、それはあなたの弱音ですか。あなたは私にどうして欲しいのですか。

「仮面取って好きだと言ってくれ。人間はみんな素顔で相手と向き合うだろ」

だけど、仮面を取るのはほんの僅かな間だけ許されるのです。長い間取っていると仮面が小さくなって私の顔にはまらなくなる。それは出来ません。首を振りたい。しかし無理でした。頭がそれを拒否して、命令で手が仮面に触れる。だめ、取ってはいけないの、仮面が、仮面が

ついに自らの手で仮面を取ってしまいました。人に素顔を見せるのは何年ぶりでしょう。仮面のない世界から彼を見るのは何て素敵なことなのでしょう。それまで見えなかった世界が眼前にひらけた気がします。彼は私の顔を舐め回すように見、近寄ってきました。私の手に持たれている仮面を奪って、あろうことかそれを割ろうとします。「だめ!」強い意志を持ってこれを阻止、すると彼は交換条件を持ち出してきたのです。仮面を返してやる代わりに、俺の前では素顔でいろ。何とも卑怯な条件です。私がその条件をのまないはずがありません。だって、仮面を返してもらわないと、二度と仮面に顔がはまらないからです。私は仮面を付けるのに必死でした。ですが、彼は私が了承するのを待っている様子です。分かった、分かったから返して、「ってことは今もだめだからな」しまった。仮面は手に渡りましたが、条件には従わなければ。こうしている間にも仮面はどんどん縮んでいきます。私は焦ります。そこで彼は問いを投げかけてきたのです。

「何がそんなに怖えんだよ」

怖い?怖くなんかありません。「嘘つけ。仮面をするってことは素の自分を隠すことになるんだよ」素の自分。ずっと昔の私に仮面をかぶせてしまった。おかげでここ何年も能面生活です。俺は、彼が言います。「素のお前がみたい。」よく見ると、仮面に小さなひびが沢山入っていました。あちこちに無数にあるひびは、私の手の中で大きく成長していき、やがて砂と化して風に乗り消えていきました。私の手元には何もありません。顔にも何も付いてません。彼が言いました。

「お前、目、奇麗だな」

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