※バンガゼ前提






憧憬、といったらいいだろうか、彼に抱いた気持ちはそんなものだった。最初は本当にただの憧れでしかなくて、背中を見ているだけで十分シアワセだった。人間とはどんどん欲の出てくるもので、いつしか憧憬が恋心に変わる、そんな変化も愛おしく思える程だった。恋というものは人間をどんどん鏡の世界へ連れて行く、人に惚れている自分に惚れて、それが本物の恋だと勘違いをする。所謂刷込みと言っても過言では無いだろう。自分が今そんな境地の人間であることも、鏡を見てしまえば分からなくなる。

「ヒート、俺の黒いTシャツどこ行ったか知らねえ?」
「……ああ、それなら昨日洗濯物の山の中にあったよ」
「マジかよ。ガゼルに悪戯される前に取ってくる」

大抵バーンの物なら、どこにあるかなんて記憶を辿れば容易い。タオル、寝間着、ユニフォーム、靴下、下着、へそくり、エロ本、エトセトラ。どれもきっちり頭の中で整理されて正式にインプットされている。バーンの方も俺にそういう情報のあることを知っているだろう。黙っているのは認めているのだという解釈に、俺はする。






「バーンを知らないか」

俺がバーンの部屋にいることに少々驚いた顔をして、水色の男は髪をまた弄っていた。それが何とも扇情的、俺は瞳の色を変える。彼の今を生きない名前など呼びたくないがために、俺はわざと主語のない返答をする。

「いません。何か用ですか?」
「いや…何でもない」
「何でもないなら来ないでください」

背を向けて部屋から去る姿勢を見せた水色男は顔を横に、右目をこちらに寄越した。女のような肩で唇が見えない。俺には、それを筆頭とした何もかもが憎らしげでたまらない。ああああこの目が仕草が肌が命が彼を、俺から遠ざける。「ヒート?」青いヤツコの奥で朝を見た。

「バーン様!」
「バーン!探したぞ!」
「わりいわりい、ちょっとレアンがさ」

レアンはかわいい女の子だ。この男のように媚びはしない、素直で、意地張りで、少し泣き虫な子。彼女だけを思えば俺は男より女の方が好みらしい。

「じゃ、あとでな」

そして俺は置いてきぼりをくらう。いつだって俺は青の前には弱くて、去る背中を引き留めることも出来はしない。俺がチームのキャプテンだったら?彼は青より白をとっただろうか。

俺は無力だ。






プロミネンスとダイヤモンドダストが統合されるらしい、その噂は半日経たない間に両チームのメンバーに知れ渡った。ダイヤモンドダストと共闘することを誰が願ったのか。いや、誰も願っていない。ジェネシスもダイヤモンドダストも敵だ。甘えたり怠けたりすればすぐに麓に棄てられるんだから、馴れ合いをすることは自殺行為なのだ。とんだマゾヒスト以外そんな愚行には及ばないだろう。馬鹿だ。きっと青が考えたに違いない。うちのキャプテンがそんなことを直ぐに承諾する筈がない。彼は自信家でプライドが高くて、青と…。

「……ん」

自分の歩いているのと同じ廊下で聞こえた声。どうやら見えないところからのようだ。耳を清める。足音をクリアにする。二つ先の角からのようだ。確かあそこは行き止まりだった。しかし必要物が隙間なく入っている段ボールが積み上がっていた。誰かが何かを取ろうとしているのか。プロミネンスの奴であれば手伝おう。

だが実際は違った。何がどうしてこうなったかを教えて欲しい。が、そんなこと理解するまでもない、目の前で拡散する情報を漏れなく吸収するしか手だてはないのだ。

「んっ…ん、あっは、あ!」
「痛いか…すぐ気持ち良くなる」
「こん、なところで…!バーン、部屋に行こう」

バーン、ヘヤニイコウ。ソコデ何ヲシテイルナニヲ。望みを潰すしかなかった。もしくは今までずっと否定していただけなのかもしれない。見えなかった見なかっただけかもしれない。此処で朧気に確信した。きっと、統合は彼から持ちかけた話なのだろう。青は従ったまでだ。

柔な考えは捨てろ。つまらない嫉妬心に苛まれないように、己の猜疑心を呼び覚ませ。そうだ昔から俺はそういう男だった。水晶体が濁って前が見えなくなった。

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